74話 ページ38
「……神崎さん、今の私は、君が思ってるような人間じゃないよ」
泣き続ける彼女に向かってそう告げる。
私は、君がここに戻ってきてまで会いたいと思ってくれているような人間じゃないことを、言わなければいけない気がしたから。
私は今は人よりも国を守らなければならない場所にいて、時と場合と、優先順位によっては人を守らない。見ないフリだってする。
失望してくれ。半ばそんな思いでそう告げたのだ。
戻れなくなるから。先に進むしか、許されなくなるから。君に、そんな道を歩ませたくないから。
罵倒でも文句でも、なんだって受け止めるつもりだった。
責められても仕方のないことを言ったのだ。
けれど、それなのに君は。
「……何も変わってなんか、ないですよ」
彼女はそう言った。
どうして、と言えば「降谷さんと手合わせをしている時のお姉さんは、私が襲われかけていた時と同じくらい、頼もしかったから」なんて、言うのだ。
「変わってないなって思いました。降谷さんもお姉さんも、お互い全力で、意地でぶつかり合ってる感じが凄くして。あの時のお姉さんと、真剣なところとか、必死なところが同じだったから。」
「………」
「変わってしまった、と言われてましたけど、けれど私にとってはずっと変わらない、頼もしいままのお姉さんです。
わたしが、ずっと好きで、憧れていた、人の、ままで…」
ポタポタとまた涙を流す彼女に私はギョッとする。
柄にもなく焦ってしまうが、そんな私の様子を見て、泣きながら彼女は笑った。
「ほら、優しいじゃないですか。私が泣いたら、そうやって焦るし、何か言葉をかけようとしてくれる。
……私、貴女のそう言うところが、ずっと好きだったんです」
「………」
「いくら貴女でも、私の恩人は否定させませんよ。
……私が今生きているのは、お姉さんのおかげなんですから。」
彼女は涙を拭って私と向き合う。
……ああ。面影がある。10年前のあの子と。こんなに、大きくなって、ここに戻ってきたのか。
「やっと言うことができます。言うのが遅くなりました。私は自分の力でここに戻ってきました。ずっと会いたかった。貴女に感謝を言いたかった。」
胸が熱くて苦しくなるのを感じた。
私は今、どんな顔をしているのだろう。
「あの時助けてくれて、ありがとう。お姉さん。」
その言葉に、私は10年背負い続けていたものが、私に取り憑いていたものが、漸く消えて行くのを感じて、涙を流してしまった。
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ちゅん(プロフ) - 番外編みたいです(;_;)パスワード知りたいです( ; ; ) (2021年3月7日 14時) (レス) id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
闇月 - イラストが最高で思わず保存したいと思ってしまいました! (2019年9月25日 19時) (レス) id: ceaacc411b (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - なんかもう理想すぎるストーリーが見つかってまだまだこれから頑張れる。ありがとうございます。これからも頑張ってください。 (2018年4月28日 12時) (レス) id: 6434e4011a (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 蒼衣さん» こんにちは!いきなりごめんなさい…。用件は下の私のコメントと同じです。よかったら見てみてください! (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
まさき(プロフ) - 湊叶さん» こんにちは。突然すみません!パスワードなんですが、作者さんの作品一覧のページのコメントを見ると書いてありますよ!脇から失礼しました! (2018年4月22日 22時) (レス) id: 8f71bf94c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2017年10月23日 18時