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骸砦へと向かっている最中の、Aとドストエフスキーはお互い無言だった。
前を歩きながら案内をするドストエフスキーに何と声を掛けたら善いのか、Aが躊躇っているのもあったが、ドストエフスキー自体も元より不調気味のAと、今無理して話す気も無かったからだ。

Aは今、自分が危険な場所へと向かっている事は分かっている。
だが、ドストエフスキーに着いて行かなければ、先程のように謎の生命体に襲われ、自身が死ぬのは目に見えている。
骸砦に着いたからと言って、自身の身の安全が保障された訳ではない。何故なら、ドストエフスキーが先程自身を首謀者側と云ったからだ。

ならば、そう考えるなら骸砦は本拠地なのだろう。

(………こういうのも、異能ってやつなんだろうか)

異能力者が跋扈する魔都横浜。
この霧の現象が、異能か何かによるものであるなら、Aも納得は出来る。目的が分からないだけで。

「………骸砦の周りは、住処を失った人達が屯している筈だろう。向かって大丈夫なのか」

纏まらない思考を誤魔化すように、そして、霧への不快感を誤魔化す為に、Aが発した言葉に、ドストエフスキーは振り向きはしなかったが、「大丈夫ですよ」とだけ返す。

「人が居ない事は君も認識している筈です。今現在、この横浜には特定条件下の人間しか存在する事は出来ません」

「………特定条件下?」

「其処も、向こうに着いたら話しますよ。」

今現在、歩いているこの時では、ドストエフスキーは教える気は無いらしい。
其処からはまたお互い無言になる。

「…………」

若しかしたら、向こうに着いた瞬間に殺されるかもしれない。
だが、逃げる気はAには無かった。霧への不快感。何かが込み上げる感覚。それらを全て抜きにしても、Aには───自身が死ぬかもしれないというこの状況下でも、何の感情も湧いて居ないことを自覚した。



「…………?」



如何して。
思い返せば、先程の孔雀の時に、自身が自己を守る為の行動を取って居なかったことすら思い出す。
死ぬかもしれないのに、只自分は、「此れは、死ぬ類のものだ」とただ思っただけで。

『其れ』に気付いたAは、かつてこの横浜に来る前の記憶を一瞬思い出す。
首を振り、其れを掻き消す様に頭から追い出した。









歪みは歪みを生んでいく。




渡瀬Aには、悪人としての素質以外に────人間として、必要不可欠なものが、欠損して仕舞って居た。

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『斜陽の罪人』

「たった一つくらい、ハッピーエンドがあっても構わないだろう?」


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あんこ入りのよもぎもち。(プロフ) - 好きです。面白いと言うか、綺麗なお話だと思いました。途中で泣いちゃいました。何と言うか言葉に出来ません。神作ってこう言う物を言うんだと思いました。 (2021年8月11日 4時) (レス) id: 002ae44b05 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃよかった……もっと絡みが見たい (2021年3月20日 20時) (レス) id: 7f95d97ba7 (このIDを非表示/違反報告)
6代 - 1日読み尽くして感情移入してしまいました、素敵な作品に出会えて良かったです。 (2020年11月10日 0時) (レス) id: 13ac01a0ba (このIDを非表示/違反報告)
織架 - すげぇ、好きっす。 (2020年10月7日 18時) (レス) id: 379e4fa26b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あっ…好きです。 (2020年10月3日 23時) (レス) id: 3d47931e7d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年10月14日 0時

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