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あれから数ヶ月は経っただろうか。

消えてしまった太宰の所為で忙しくなってしまったらしい中也とは、電話位でしか話せていない。
………龍は、聞くところによれば太宰が居なくなったことで荒れている様だが。

俺も俺でバイトや学校で忙しく、然し漸く落ち着いた所で、俺は探していたものを見つける事が出来て、足を進めていた。
海が見える穏やかな場所。然し、緑にも囲まれている此処は、墓地とは思えない位の場所だった。
横浜にもこんな場所があるのだなと、最初は俺も思ったものだ。

少し離れた場所にある木の下に、俺が探し求めていた場所であり、人が居た。
居た、というよりは、眠っている、の方が正しいのかな。

「お久しぶりです。織田さん。」

『S.ODA』と彫られている墓石に手を触れ、なぞる。
中也に、織田さんの墓があるのなら教えてほしいと云えば、場所自体はすんなり教えて貰ったものの、漸く落ち着いて、やっと此処に顔を出す事が出来た。
手を合わせて、目を閉じる。

織田さんの死体を、目にした事はない。
織田さんの死は太宰から口頭のみで伝えられただけだ。だから本当は、織田さんが死んだという実感は、この墓を見るまでは正直余り現実味が無かった。

でも。

「酷い人だ。本当に、死んじゃうなんて」

現実味が無かったから、あの時は織田さんの死を乗り越えられて居た心算だったのかもしれない。
けれど、甘かった。こうやって、あの人の名が刻まれている墓を目にして、やっと現実だと思い知らされたのだ。
あの人は死んだ。もうこの世の何処にも居ないのだと。

「俺に呪いを残すだけ残して死んじゃって、意外と貴方って残酷ですよね」

太宰にも、ある意味呪いを残したと云えるのかもしれない。
まあ、当人はそんな心算は無かったのだろうけれど。……尚更性質が悪いが。

「人は、声からどんどん忘れていくみたいですけれど、きっと俺も太宰も、貴方の声を思い出せなくなる時が来るんでしょうね」

忘れたくないと願っても忘れてしまうのが人だ。
然し、厭な思い出や、辛い思い出の方を鮮明に覚えてしまうのも人間で。
人間の構造は、どうしてこうも人間そのものを苦しめる物でしか作られなかったのだろう。

楽しい思い出も、徐々に忘れていく。辛い過去だけを覚えながら。

「……忘れたくなんか、無いですよ。織田作さん(・・・・・)

ぽたり、ぽたり、と地面に染みを作っていく。

今更になって俺は泣くのだ。
この人が死んだ事を、俺はやっと実感したのだから。

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(プロフ) - 勿論不快にさせた事実は変わりませんが、改めまして女狐呼びは後日修正させていただきます。公式からの呼び名がもし出たらその際はまた変えるかもしれないです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。 (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» 妲己、というのもよく考えたら失礼かなと思ったので追記を。前記の通りキャラを貶す意図はなく、クリスティ爵の残酷な面が垣間見える彼女の言葉一つで街を焼ける、といった権力の強さに狐であった妲己のようだ、といった自分の解釈もあります。→ (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 呼び方の方は後日修正させていただきます。コメントありがとうございました。 (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 誤解を招くようですが、クリスティ爵はとても好きです。映画で動いて声もついたのは本当にとても嬉しかったです。映画のイメージで「こう言う感じの方かな」と言ったイメージが先走ってしまって申し訳ありません。それと夢主持ち上げ、というよりはその辺の→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» といった意味で女狐呼びをさせていました。軽率にしてしまい申し訳ありません。情報が少ない方なので、私なりの解釈等も混ざってしまい、呼び方等に不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。決してキャラを貶すために使ったものではありませんでした。→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年11月13日 18時

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