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「部下なんだ、あの子は」
ご飯を作っている最中、後ろで俺の料理を作っているのを飽きもせずに見ていた太宰君は、突然口を開いた。
「貧民街で拾って来た子でね。中々見込みがある子だったから私が直接拾ったんだよ」
「……」
成る程な。痩せ細っているのはその頃の名残か。
多分その貧民街時代に肺を病んだのだろう。そして満足に食えなかったその頃と比べて、多分腹一杯食えるようになった環境になっても、食欲は多分無いのだ。きっと元より、余り食が太い訳ではなかったのだろうから。
カチリ、と強火にして一気に仕上げる。
「あの細さで脆さだ。あの程度ではマフィアどころか裏社会で生きてはいけない。だから育ててる最中なんだよ」
「ああ、あれ、躾の途中だったの」
「よく云われるんだけどね、『お前はやり過ぎだ』って」
だろうね。良心がある人間からしたら口出しもしたくはなるだろう。或いは同情か。
然し俺とは全然違う世界の話だ。俺が口出す権利は何一つない。太宰君の教育方針にも。かと言って、見過ごすには余りにも酷な事ではなるのだが。
「きっと君、余計な事考えてるだろ」
「太宰君からしたらそうかもね」
「……此れだけ話したのに、君、全然私の事拒絶しないのだね」
背中にとん、と太宰君の頭が押し付けられる。ぐりぐりとまるで猫が甘えるかのようにされて、本当に子供みたいだと思った。
「夢を見たのだよ」
「夢?」
「君の姿形を象った悪夢が、君の顔で、声で、私の事を拒絶する夢」
「……」
「………正夢になるかと思った」
カチリ、と火を消す。
若干動揺していて、ほんの少しだけ焦がしてしまったが、まあ別に見た目も味も大丈夫そうなので皿に移す。
相変わらず背中に頭を押し付けたままのデカい子供の名前を呼ぶ。
「太宰」
呼べばパッと顔を上げて俺の顔を見た。
堅苦しい君付けも、正直もう疲れた。もう良いだろう。もう良いんだ。
そんな顔されて、そんな声で、遠回しに嫌わないで欲しいと云われたら、完敗するしかないだろう。
「出来たよ。…一緒に食べよう」
「…渡瀬、く、」
「太宰」
「……A」
「よく出来ました」
下の子をあやすみたいにすれば、流石に怒られてしまうかと思ったが、そんな事はなかった。寧ろ嬉しそうにしている。
其れでいい。そうであって欲しい。
まるで死人の様な顔は、俺だって見たくないのだから。
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零 - 未だに太宰のSSRが来ない😭(やり始めて1年半です) (3月4日 6時) (レス) @page38 id: 384173ed73 (このIDを非表示/違反報告)
安息香酸 - コメント失礼します。もし良かったら番外編のパスワード教えて頂きたいです! (9月8日 14時) (レス) id: 7f39e79d81 (このIDを非表示/違反報告)
おしとう(プロフ) - ミナさん» コメント失礼致します。もし可能でしたら番外編のパスワード教えていただきたいです!! (2023年3月4日 21時) (レス) id: b3cffe0f1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナ - 番外編のパスワードを教えてもらいたいです! (2022年3月12日 18時) (レス) id: edad4e8a78 (このIDを非表示/違反報告)
ama846(プロフ) - コメント失礼します。もしよろしければ番外編のパスワードを教えて頂けませんか? (2021年12月19日 21時) (レス) id: bfb29f0477 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2018年9月28日 16時