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・芥川視点

白衣を纏った男の後ろ姿を見た瞬間、先程まで僕を折檻していた太宰さんは、瞬時に張り詰めた殺気の様な空気を解いた。
突然終わった其れに、何事かと真っ先にその後ろ姿に向かって走る太宰さんの後を追う。

港で海を眺めている、何処にでも居るような普通の男だった。
何故この様な一般人を、と思えば太宰さんは何の躊躇いも無くその男に話しかけた。

「……この辺りは偶にマフィアが居たりするんだよ。もう夕刻だ。何があるか分からないから、暗くなる前に帰ると良い」

何処かマフィアだと隠す様な口調に困惑する。そして、何故かこの男と知り合いの様だった。
何故、こんな一般人と。男を睨め付けていれば、男と目が合った。

「後ろの子、肺が悪いんでしょ。あと何処か怪我してるんじゃないの。」

……その言葉に絶句する。
太宰さんを見れば、太宰さんも目を丸くしていた。咳の仕方で何となく分かった、と言う辺り、格好も相まってこの男は何かしらの医療従事者では無いのか。
太宰さんに早く帰ったほうがいいと言う忠告を受けて、素直に横を通り過ぎて帰って行く男の後ろ姿を見る。

咳ならともかく、黒外套を纏っている中で怪我をしている、なんて分かったのは恐らくは僕の動きを見ていたからだろう。
僕としては通常通りにしていたつもりだったが。

「私が蹴った左脇腹を無意識に庇うような動きをしていたのだよ、君。とは云っても、云われなければ気付かないような最低限の動きだけだ。
………腐っても看護師の卵な訳だ。病弱な人間の動きをちゃんと見ている」

とうに見えなくなった男の後ろ姿が消えた方向を見て、何処か太宰さんは楽しそうに笑った。
あの男は、貴方の何なのですか。と訊けば「……んー、お母さん」と冗談のように云った。

「芥川君。私は君のポンコツな能力も、君のその狂犬の様に吠えては獲物を喰らうその性格も理解している。けれどね、殺すだけが君の能力じゃあない、というのは私は何度も云ってるはずだ」

「……」

「君は無差別すぎる。殺さなくてもいいものまで殺す。その牙を若し、あの子に向けてご覧。私は10回は君の事を殺すよ」

ぶわりと厭な汗が滲む。
「なんてね」と太宰さんはこの話題は終わりの様に踵を返したが、否、あれはきっと、本気だ。

あの様な弱そうな男の何が、この人の、と拳をきつく握り締める。






左脇腹が、今になってじくじくと蝕む様に痛み出した。

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- 未だに太宰のSSRが来ない😭(やり始めて1年半です) (3月4日 6時) (レス) @page38 id: 384173ed73 (このIDを非表示/違反報告)
安息香酸 - コメント失礼します。もし良かったら番外編のパスワード教えて頂きたいです! (9月8日 14時) (レス) id: 7f39e79d81 (このIDを非表示/違反報告)
おしとう(プロフ) - ミナさん» コメント失礼致します。もし可能でしたら番外編のパスワード教えていただきたいです!! (2023年3月4日 21時) (レス) id: b3cffe0f1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナ - 番外編のパスワードを教えてもらいたいです! (2022年3月12日 18時) (レス) id: edad4e8a78 (このIDを非表示/違反報告)
ama846(プロフ) - コメント失礼します。もしよろしければ番外編のパスワードを教えて頂けませんか? (2021年12月19日 21時) (レス) id: bfb29f0477 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年9月28日 16時

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