100 ページ5
○
「…も、」
「Aさん!お久しぶりです!」
「蘭ちゃん、先生は?」
「ああ、父は……ほらあそこに」
「わあ…」ソファの上で、ぐでっとダラけていた毛利先生に近付いた。蘭ちゃんは長い溜め息をついて私に頭を下げた。彼に一通り悪態をついて、部屋を後にする。
近付こうとすれば、ビールの缶があちこちに散らばっていて、ああこんな事なら安室透を連れてくれば良かったなと反省した。
片付けは苦手だなあ、と額を掻いて彼の机に手を伸ばすと、それはいとも容易く止まってしまった。
「……これ、」
大きく広がった地図には沢山の赤丸が付いていた。よく見てみると、それはどれも私が好きな店や好んで立ち寄った場所だった。
…探してくれていたのか、迷惑かけたな。
私は知っていた。毛利小五郎が本当は何者かを。同じ警察として人を守っていたことを知っていた、どうして辞めてしまったのかも。
彼はとんでもなく不器用な男だ。だけど、誰よりも優しく勇敢な男でもあった。
「…記憶をなくした私に優しくしてくれて、ありがとうございました、毛利先生」
ぐーすかと鼾を立てる彼は、偶に声を漏らしながら狭いソファの上で寝返りを打っていた。
「……んあ?」
「おはようございます、先生!」
「来てたんなら、ちっとは声かけてくりゃあ…」
「……先生、ありがとうございます」
「何がだ」
「分かってるんでしょう?私は、貴方と会えて良かったと思っています」
「っおい、くさか…」
「はいっ!何でしょう?」
きっと、毛利小五郎は気付いている。
私が本当は何者で、何をしていたのか。
ドアノブに手を掛け、部屋から出て行こうとした時蝉の声に負けそうなくらいか弱い声で彼は言った。
「幸せになれよ……いつでも、蘭たちと待ってるからな」
765人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:くさの | 作成日時:2018年6月17日 15時