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「日下部さん!」
「ああ、風見…」戻るや否やものすごい勢いで近付いてきた彼に少し距離をとる。零はすっかり涙の跡が消えて、息を吐いた。
握りっぱなしだった手に気付いて、慌てて解く。彼は一瞬不服そうな顔をして、顔を逸らした。
「な、なんで泣いてるんだ」
「日下部さんが消えたなんて言うから我々は必死に探したんですよ!」
「悪かったよ、今回は悪かったと思ってる」
「やっと戻ってきたと思ったらまたいなくなるんですから!その間にどれだけ寿命が縮む思いをしたか____」
仮にも上司に饒舌を披露する風見に腕を回す。それと同時にわらわらとむさ苦しい警官たちが現れて私たちの周りを取り囲んだ。
「行くぞ、A」無理やり風見の体から手を引き剥がされて、零に引っ張られた。久しぶりに見た同僚や仲間たちの手が私の頭に達する前に、零がそれを遮った。
「A、今度飲み会しような!」
「もちろん!」
わいわいと盛り上がる男だけの空間を振り返り、私は大きく頷く。
そして零は「ダメだ」と一蹴して彼らに見せつけるかのように額にキスを落とした。
「…っばか!変態!」
「痛っ、A落ち着けって」
「落ち着いていられるかあっ!」
「ほら、皆 見てる」
「見るな!行くぞ、零!」
彼の唇のあたたかさが、徐々に私の顔の熱を上げていくのがわかった。少し前までは、キスなんて何とも思わなかったのに。…どうしてこんなに。
どうしてこんなに嬉しいんだ。
「俺も着いて行っていいなら良いけど?」
「次、みんなの前であんなことしたら絶交だぞ」
「あんなことって?」
「……ふ、二人だけの時なら、キスしても、いい…けど」
それからすぐに、彼の顔が私の視界を埋めて、小さな音が響いた。
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作者名:くさの | 作成日時:2018年6月17日 15時