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それでも、もう一度、千秋楽だけでも、と見に行って感動したのは事実だった。
演技が急激に上手くなったかと聞かれればそうではないけど、それでも、最後に満面の笑みで「ありがとうございました!」と笑う咲也を見て、胸に引っかかっていた心配や不安がストンと落ちた。
「それで寮に住ませてもらってて_」
「みんなで壇上で布団を敷いて寝たり_」
「団員が辞めそうになったりして大変で_」
もう何年も使っているのかと疑いたくなるほどボロボロの台本を握りしめて、彼は思い出話を話す。
昔から彼が楽しそうに話すこの時間が好きだった。
『それで、咲也はしばらく公演はないの?』
「うん、次は俺たちじゃなくて夏組が……って、もうこんな時間になってる!」
「ごめんね俺また話しすぎちゃった!」
ふと時計を見て、バッと椅子から立ち上がった。何か用事でもあるのか、彼はそそくさと帰る準備を始める。そんな彼を横目に窓の外を見るとさっきより少し空がオレンジがかっている。それよりも夏組ってなんだろう。
「Aちゃんと久しぶりに話したら楽しくて、つい長居しちゃった」
『全然、私も楽しかった。また来てね』
「うん!」
家に帰ってすぐ咲也と話したため、まだ制服姿の私を見ながら申し訳なさそうに笑った彼を見送る。
しばらくしてリビングに戻ると、椅子の上に1冊、ボロボロの本が置かれていた。
これは彼の_
『台本忘れてる……』
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作者名:まっかちゃん | 作成日時:2022年12月27日 23時