【短編集】素直になりきれない【d!】 (ページ7)

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｢もう、やだ…｣
｢ん？何か言ったか？｣
｢いいえ、別に…｣

明らかに先程よりも疲れた顔をしているであろう私に対して、慣れた顔で歩く彼。
並んで廊下を歩けば一度注目の的になってしまうのだ。降り注ぐ視線の嵐に私はもういち早くこの場を逃げ出したいのだが、何故か彼は私のカバンを掴んで離そうとしない。
明らかに私を逃がすまいという強い意志を感じる。
本当にやめてくれ。

｢あ、ここの廊下を曲がればすぐそこなので、そろそろ私の鞄を離していただけないでしょうか…？｣
｢折角だから、昼を共にしてくれないか？｣
｢嫌(や)です｣
｢ん？？すまない、周りが少しうるさくて聞こえなかった。もう一度言ってくれないだろうか｣
｢嫌、です！｣
｢ん？｣

もうヤダこいつ。難聴ならさっさと病院に行って、耳あかでもとってもらえ。
しかし、明らかにハイとイエスしか受け付けてくれなさそうな彼の態度。
小さくため息をつくと、｢分かりました…｣とぽそりと呟く。
すると、満足そうに笑って頷く。
絶対わざと聞こえないフリしていたぞ。さっきよりも明らかに小さな声で呟いた言葉を聞き逃さなかったのだから。

購買の商品はほとんど無くなっていて、あるのは菓子パンが2、3個と、菓子類、ジュースのみ。
彼はチョコレートのかかった菓子パンを迷いなく選ぶと、支払いを済ませる。
良かった。何故か、彼の財布の中から小銭が出てきたことに安堵してしまった。
勝手なイメージだが、彼の財布からはお札かカードが出てくるのではないかという懸念があったからだ。

私もなんとなく、たまたま残っていたいちごミルクを購入する。