【短編集】素直になりきれない【d!】 (ページ6)

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｢…コイツ、心の中でも読んでいるのか…？とでも言いたげな顔をしているな｣
｢ゔ…｣

思わず顔をひきつらせてしまうと彼は、くつくつと喉の奥を鳴らして笑う。
この笑い方は昔はしていなかったぞ。会わないうちに人は、やはり変わるものなのだな。

｢昔―｣

ぽつりと言葉を紡ぎ始める。

｢―お前みたいに、思っている事がスグに顔に出る分かりやすい奴がいてな…｣

どこか優しい目をして話し始める。

｢…今は、その人とは…？｣

恐らく、いや確実に私の事を話しているのは分かっている。でも、知らないフリをして尋ねてみる。

｢ああ、小学生の時にくだらない事で大喧嘩をしてな。そのまま関わらなくなってしまったよ｣
｢そう…｣

短く語る彼の顔を見れなくて、ふいと顔を背けてしまう。
あんなに優しい顔をした、懐かしむ様な、割れ物に触るかのような繊細な彼の表情を、私は見た事がない。でも、それは今の私じゃなくて、昔の私に対して向けられているものだ。

｢で、だ｣

少しの沈黙が流れたあと、咳払いを一つしてから口を開く。

｢購買まで案内をしてくれないだろうか？｣