優しさと少しの ページ3
｢お好きですか？もし…、もし、Aさんが良ければ、我々国の歴史でもお教えしましょうか？｣
エーミールは少し言葉に詰まりながら、そう問いかけてくる。
確かに私には、この国、この世界に関しての知識はゼロなのだ。教えてもらえるに越したことはない。この世界で生きていくためには必要だろう。
｢ああ、でも、そうなるとAさんのやる事が増えてしまいますね…。無理に、とは言いませんから｣
｢…ぜひ、ぜひ教えて貰えませんか｣
そう答えると、困ったような表情から一変してみるみる笑顔になっていた。
｢い、いいんですか…？！｣
その声音はどこか嬉しそうで。久々の、講師としての活躍ができるのが嬉しいようで。
この短い時間ではあったが、今までの中で1番の笑顔だった。
｢では、人が少ない時間帯の方が落ち着いて勉強もできるでしょう。夕方16時頃であれば、私も基本空いているのですが…、いかがでしょうか？｣
｢多分、大丈夫だと思います｣
｢では、来れるようであれば連絡してください。こちらも準備を整えてお待ちしています｣
にこりと笑った後に、それとも、と付け足した。
｢また、…またお迎えにあがりますか…？｣
それは優しさと少しの悪戯とが混ざりあったような言葉。
｢…！大丈夫です…！迷子にはならない、はず、です…｣
少し自信はないが。
私は彼に、迷子になったことを話しただろうか。
洗濯室での会話を思い出してみる。
話していないな…。では、何故彼が知っているのだろうか。
｢ふふ、すみません。実は先刻、ロボロさんから案内してやってやと、連絡がありまして。迷ってしまわれていたのかな、と｣
｢ああ―｣
そういう事か。
ロボロも要らないことを言ってくれる。恥ずかしいから隠したかったのに。
しかし、迷わずにここまで来れたので、その事に関しては感謝しておこう。
｢何かあれば、言ってくださいね｣
そう一言添えられ、また、しばらく他愛のない会話をして、昼前まで過ごした。
そして、そのままエーミールと共に食堂へ向かうことにした。
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作者名：にこ† | 作成日時：2019年10月3日 14時
