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「おい」
ある日の夕方のことだ。
私が本を読み耽っていたら文字に影が落ちて、上から猗窩座さんが覗き込んできた。短い前髪が目の先がゆらゆら揺れる。
「あと半刻後にここを出るから、支度をしろ」
背中をつつかれ、急かされ、あれよあれよという間に半刻後、私は数冊の本を手に身支度を整え、猗窩座さんと並んで部屋に立っていた。
「あの、どこに行くんですか」
「さぁな」
「……え？」
不安な返答を問いただす間も無く、べん、と琵琶の音がして、気がついたら何やら煌めいた部屋にいた。隅から隅まで眩しい色に包まれた部屋、足元には橋があって、室内なのに水がある。奇妙な空間だった。
「何この綺麗な部屋……」
作り物みたいで、何もかもが嘘くさい。言いようのない居心地の悪さを感じ、私は無意識に猗窩座さんに一歩近寄った。猗窩座さんも何かを警戒するように、私を身体の背後に隠した。
「ーーやあやあやあ、よく来てくれたね！」
泡が弾けるような声。振り向いたら、手を取られ、視界いっぱいに虹色の瞳が広がった。
「君があのお方の唯一だ、ね」
ね、という言葉とともに、虹色の瞳が赤く染まった。否、目の前の青年の鼻から上がもろとも消えた。
「ひぃ……んむっ」
悲鳴を上げそうになった瞬間、背後から口や鼻を大きな手に覆われ、隠される。びしゃ、と音を立てて、青年から溢れた液体が私の顔や口を覆う大きな手のひらに降りかかる。
「あのお方の唯一だぞ、気安く触れるな」
低い低い猗窩座さんの声、猗窩座さんが素手で青年の頭を飛ばしたのだ。残された口は、ひどいなぁと拗ねたように言葉を紡ぎながらも、薄く笑っているように見えた。
私が目を見開いている間に青年の頭はぼこぼこと再生し、私が唾を飲み込んだときにはもう、元通り虹色の瞳がにたりと細められていた。
口を覆う手が少し緩んだので、私は振り向いた。そしたら驚いた。
六つもの赤い瞳が至近距離で私を射抜いていたのだ。
びゃあ、と間抜けな声をあげて、私はその場でバランスを崩し、お尻から転げた。
「わぁ、とっても積極的だね！」
ら、悪運にもあの虹色の瞳の青年のもとへ寄りかかってしまっていた。私は再びぎゃあと騒ぐと、少し離れた位置にいる猗窩座さんの胸へ飛び込んだ。
私は猗窩座さんの背後という安全地位へ隠れると、そこでようやく、あの大きな手のひらがあったから私は青年の血を口にしなくて済んだことに気がついた。
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モブちゃん - 無惨様、優しい！マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (
レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです！というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く！素敵な作品ありがとうございます！ (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…？！ (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年10月22日 21時
