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 濡れた髪を拭かれながら私は、ぼうっと考えた。

 人の命を奪うこと。人に命を奪われること。
 無惨さまは人の命を食べて生きていること。私はその無惨さまに生かされていること。

 そのときふと、腐った夜の街でただ一人、月の光を己がものにするように立っていた無惨さまの姿を思い出した。あのとき、私達は鼻先をつきあわせ約束を交わしたはずだ。

『……私のものになるからには、絶対の忠誠を誓うんだ。そうでなければお前は土に還ることになる』

 絶対の忠誠。私は今回はじめて、『本当に守らなければならない命令』を破ってしまった。
 これは無惨さまへの裏切りなのじゃないか。

 でも、無惨さまの指は、手のひらは、優しかった。なんでだろう。なんでこんなにも優しいんだろう。なんでなんで、なんで。
 ……無惨さまは冷たい人だ。自分の血を分け与えた鬼にも無慈悲で、残酷な扱いをする人だ。人間にだって、それは例外じゃない。
 無惨さまを裏切ったいま、私はきっと……土に還る。

「無惨さま」
「なんだ?」

 女性の姿のままの無惨さまが柔らかに答える。私はうつむいて、胸のあたりをぎゅっと握りしめた。

「一つ、最期のお願いをしてもいいでしょうか」

 髪を拭く手がとまる。さいご、と無惨さまが呟く。

「私の身体は、無惨さまの部屋から見える木の根本に埋めてほしいです」

 出過ぎた真似、わがまま過ぎるだろうか。私はどくどくと存在を主張する胸をぎゅうと押さえつけていたものの、背中から声がすることはなかった。
 恐る恐る、私が振り向くと、そこには奇妙な顔をする無惨さまがいた。眉を寄せ、数回瞬きをして言う。

「それは……新手のジョークか? 悪いが私にはその面白さが一切理解できん」

 え、と私は声を漏らす。

「違います……本気です」
「なら尚更意味が分からない。なぜAの身体を木の下へ埋めなければならない」
「……約束、したでしょう?」

 私が月夜の約束を反芻してみせたら、無惨さまは目を見開いた。そして心底意外そうに、私の気持ちそのものズバリを言う。

「まさか……私の命令を破って茶屋に向かったことを気にでも病んでいるのか?」

 そうです、そうですとも。
 私が再び無惨さまに視線を戻したら、そこにはほんのり頬を赤く染め、なぜか嬉しそうに目を細める無惨さまがいた。

「そうか。Aは私の命令を破ったと思っていたのに、私を呼んだのだな」

 *

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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