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小屋中に飛び散る血。ばらばらになった身体。
想像を絶する悲惨な状態に、冨岡義勇はわずかに顔をしかめた。
義勇は、ここ数日連続して起こっていた行方不明事件を追っていた。なぜなら、この事件は鬼の犯行だと鬼殺隊のもとで判断されていたからだ。しかし思えば、不可解な点は多かった。行方不明になる女性は皆、昼間に出掛けていた点。そして行方不明になる女性が皆、とある茶屋を気に入って通っていたという点。義勇の勘は、事件ににおう『人間臭さ』を感じ取ってはいたのだ。
茶屋で働く男の私室から、手記が見つかった。
これまでの犯行についてを緻密に書いた日記で、その最後にはまた新しい女性に気持ちを向けているという旨も。
財布を拾ったことをきっかけに出会ったという女性が、男の働く茶屋で会う少女だという結論に至るのはごく自然なことだった。
不思議な少女だった。
黒い髪は艷やかで、黒く濡れた瞳は利発げであった。常識外れながら言葉の端々に隠しようのない賢さが滲む。いかにも狙われそうだ、と思った。だから仕事の内容や場所を聞き出し、忠告をしたのだ。
それから数回、茶屋へ行った。
調査のためと言いつつ、昼間に活動しない鬼を探すのには不必要だとも感じる。どちらかといえば、事件の抑制のために、帯刀した刀を隠さずに持っていた。
「むしろ好都合だ」
少女の相席の依頼を受け、そう答えたら、少女は首を傾げていた。義勇は特に深い意味もなく、ただ隣ならば一番狙われそうな少女を一番近くで監視出来て便利、くらいにしか考えていなかった。
そののち、少女から飛び出す言葉の数々には、やはり少女の隠しきれない賢さが滲み出ていた。
観察眼と知識の優れた少女だ。よっぽど丹精込めて育てられたのだろう。そういえば以前、貿易会社の社長に拾われたと言っていたが、おそらくその社長は彼女を相当気に入っているに違いない。
犯人の目星、と言われたとき、義勇はとっさに少女を気に入っているらしい茶屋の青年を探してしまった。義勇は鬼殺隊だ。鬼の犯行だと目星を踏んで今に至るのに、青年を疑うのはどうなのか。
葛藤はあったものの、結局人間の仕業だった。鬼ももとは人間。人間も容易に鬼になりつる。ヤツの血が、あろうとなかろうと。
殺された青年を誰がここまで痛めつけたのかは、全く分からなかった。ただ、その血の中に、あの少女のものがないことを、義勇は信じるしかないのである。
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時