第二十八話 ページ29
*
「釣れたっ！」
「……」
「またもう一個釣れた！」
「……」
「オマケのもういっ＿＿」
「＿＿お嬢ちゃん、もうゆるしてくんねぇか？ 俺んとこの屋台がヨーヨー釣りじゃなくてプールになっちまうよ……」
私は視線を上げ、汗をだらだらたらし、青い顔をするヨーヨー釣り屋台のおじさんを見た。私の手にはすでに十数個の色鮮やかなヨーヨーがぼよぼよ揺れている。
トムラさんはさっき出店で買った狐のお面を斜めにかぶり、私の隣で腰をかがめながらいち、にぃと私の手にあるヨーヨーの数を数えていた。
「十三個も取ってどうすんだよ」
十三個あるらしい。一回で十三個って、なかなかの記録じゃないだろうか。私は誇らしくて頬を赤く染めていたけれど、トムラさんの呆れた顔にちょっとだけムッとした。きっとトムラさんは分かっていないのだ、この記録の凄さが。
「おねぇちゃんとっても上手だね！」
「えへへ、ありがとう」
気がつけば私とトムラさんの周りは小さな子どもたちのギャラリーに囲まれており、私はその子達にヨーヨーを一つずつ配ってあげることにした。褒められて嬉しくなったとかじゃないから、ぜんぜん。そんな意味を込めてトムラさんをちらりと見ると、なぜかトムラさんは眩しそうに目を細めていた。お面で影のできたトムラさんの顔、薄暗い表情だけど、そこに宿るのは悲しみだけではない気がする。憧憬、羨望、そんな切ない気持ち。
「はい、じゃあ次はトムラさんの番ですよ」
ヨーヨーを一つ残してトムラさんをそう促す。屋台のおじさんはざっとまた青ざめるけれど知らんぷり。
何か言いたげなトムラさんだけど、釣り針を渡されると特に何も言わず、真剣な面持ちでヨーヨーのこよりの部分を人差し指と親指で掴む。そしてそっと水中に針をくぐらせた。
「……あ」
と、声を漏らしたのはどちらだったか。
ヨーヨーを引っ掛けたトムラさんの釣り針はこよりの部分でぷつりと事切れ、プールの底にゆっくり沈んでいった。
「いやぁ、お兄さん、残念だったね」
安心したような屋台のおじさんの声にトムラさんは立ち上がると、私の手首を引いて立ち上がらせた。私はヨーヨーをまるで愛情の固形化みたいに喜ぶ子どもたちを横目に見ながら、持っていたヨーヨーをトムラさんに差し出した。
「トムラさん、これ」
トムラさんのための、青いヨーヨーです。
トムラさんはそれを、またあの眩しそうな瞳で受け取るのだった。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
