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私が住まわせてもらうことになったのは吉原遊郭の京極屋というお店だった。女将のお三津さんに蕨姫さんが「道端で拾った、私のとこで面倒見るから放っておいて」みたいなことを言ったら、お三津さんは心底驚いていたけれど、蕨姫さんが有無を言わさぬ態度を貫き通したがために、しぶしぶ縦に頷いた。そのとき哀れなものを見るような目で見られたのだけど、今思えばそれは勘違いでは無かったのだろう。
私が蕨姫のもとで暮らすようになって分かったことがいくつかある。
それはこの京極屋は蕨姫さんに頼りきりで経営を成り立たせたいる、ということだ。それだけ蕨姫の存在は京極屋にとって大きく、私の存在について誰も何も言わないのも納得。誰も何も言わないのではない。誰も何も言えないのだ、蕨姫に。もちろん、蕨姫の強気な態度も原因の一つだとはもちろん思うけど。
もう一つ分かったこと、それは蕨姫はとっても我が強い人だということだ。京極屋で働く子にこっそりと教わったことなのだけど、いわく、蕨姫に虐め抜かれて辞めていった子や、自ら命を断つ選択をした子が多くいるらしいのだ。
だからお三津さんはあの日、私を哀れな目で見たのだ。
「蕨姫さん、白粉をお持ちしました」
蕨姫は私の言葉に振り向くと、「遅いわよ」と不機嫌そうに言い放った。蕨姫の周りに控える禿たちが顔を青ざめさせ、震えだした。
「紅が切れてる……アンタ、今すぐ紅を持ってきなさい」
蕨姫は目ざとく、禿の中でもひときは震える少女を指差すと、そう言って扉を指さした。はいっ、と少女の声がひっくり返る。
「あ、蕨姫さん、待ってください」
は？ と蕨姫さんは低い声を発した。呼応するように禿たちがびくりと震える。私は構わず蕨姫の化粧台に近寄ると、その中から漆塗りの器を取り出し、蕨姫に差し出した。
「予備の紅です、足りなそうだったので補充しておきました」
蕨姫は目を見開く。艶っぽく濡れた大きな瞳、私は失礼を承知で紅を握りしめると、蕨姫と視線を合わせた。
「……私が、お塗りしても良いですか、蕨姫さん」
蕨姫はしばし呆然と私を見ていたけれど、やがて周りに携えていた禿を部屋から追い出すと、小さな声で「失敗したら分かってるわね」と言った。
私がこの数日で知ったことは、蕨姫についての悪いことばかりではない。
遊郭に働く人々の大変さも、私は見て触れて痛感した。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (
レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした！！！無惨様の好感度爆上がりです！ (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2020年1月25日 12時
