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 指の先に紅をのせ、蕨姫の唇にのせる。紅なんて塗らなくとももともと艶めいて魅力的なそれが、赤く染まって、より一層見るものを妖しく蠱惑する。

 遊郭とは、男の人をもてなす場だ。
 自らの身体を使い、相手を癒やす。遊郭で働く女の人たちはみんな、自らの命を削って働いている。指の先まで品よく、いかに魅力的に見えるかを考え、たとえ身体を重ねている最中でさえ、己を俯瞰している。
 すごいと思った。ただ純粋に、かっこいいと思った。

 蕨姫はとてもかっこいい。そしてとても美しい。
 見た目だけじゃない。その生きざまがとてもかっこいいのだ。魅力的なのだ。だから支えたいと思った、少しでも力になりたいと思ったーー

「ーー私が鬼だって知っていても、そんなこと言うのね」

 紅を塗り終えた唇が、そう言葉を紡ぐ。
 私の口に触れることに抵抗が無いのか、と聞かれ、返事をしがてら、私が遊郭に来て感じたことをつらつらと話したら、そう言われた。

「……私にとって、鬼であるかそうで無いかはあまり重要では無いんです」

 蕨姫の瞳を見つめる。

「私は、もっとずっと違うものを見ている。私にとって大切なものは、鬼であるか人間であるかというものさしでははかれないんです」

 だから、私は蕨姫を尊敬してます。

 蕨姫は、ふっと視線をそらし、少しだけ恥ずかしそうに俯いた。

「……なんであのお方がアンタを側に置いたのか、少しだけ分かった気がする」

 私は目を見開いた。
 言葉に、ひりりと胸が疼く痛む。
 私はえへへ、と笑ってみせると、指についた紅を布で拭った。




 その夜、夢を見た。
 なんだか懐かしい夢だ。

「……おい」

 綺麗な顔の男の人……いや、無惨さま。無惨さまが少し眉を寄せて私を覗き込む。

「いつまでそのぼろ雑巾みたいな服を着ている」

 言われて私はお気に入りの一着、もといぼろ雑巾を見下ろす。すんすん、と鼻を寄せ、うん、と一つ頷く。

「あと一週間くらいしたら洗濯するつもりです!」

 呆れた顔を浮かべる無惨さま。
 しかししばし顎に手を当てると、少し考えるような表現を浮かべる。そして私の身体をぺたぺたと触ると、どこかへ行ってしまった。

「……?」

 その次の日のこと、私は無惨さまからはじめて服を頂いた。




 朝、目が覚めると涙が出ていた。
 涙とともに遠ざかる、大切な記憶。
 繋ぎ止めていたくて、私はもう一度目を閉じた。


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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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