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「……この娘が本当にあのお方の唯一? こんな貧相な身体の娘が?」

 言って、女の人は攻撃的な視線を私に向けた。私は見まいと思っていてもつい、開放的に着崩された胸元や艶めかしい足を見てしまう。あ、ほくろ、なんて思って慌てて目をそらした。

「そうだ。くれぐれも傷つけるなよ」
「……なら自分で囲えば良いだろうに」

 小さく呟くと、女の人は実に不愉快そうに私を見た。

「ここは遊郭よ。私はここの花魁、蕨姫。鬼だって知られた今、本来ならアンタを生かしておくわけにはいかないんだけど、あのお方の唯一に手を下すことは出来ないね」

 え、でも私はもう、と言いかけたところで、猗窩座さんに遮られる。それは伏せておけ、ということなのだろう。

「……アンタ、名前は?」
「……Aと申します」

 ふん、と蕨姫さんは顎をしゃくった。

「これからは私のもとで働くんだよ、分かったね?」

 はい、と返事をしたけれど、その声は掠れてしまった。
 猗窩座さんをそっと見る。
 猗窩座さんはなぜ、私をこの女の人のもとへ預けることを決めたのだろうか。



「……俺のところへは居ないほうがいい」

 その後に疑問をぶつけてみると、そんな返事が返ってきたから、私は目をぱちくりさせた。居ないほうがいい、という表現に違和感を覚えたのだ。

「万が一のとき、見つけやすいほうが良いだろう」
 
 どういう意味だろう、私はまた目をぱちくりさせた。猗窩座さんの言葉の真意を掴みそこねて、思わず服の裾をぎゅっと握りしめた。

 服……そう、服。
 私の私室の収納には、きらびやかな服がたくさん入っていた。覚えていない、けれどおそらくあの服たちは鬼舞辻さんにいただいたものなのだろう。一つ一つに想いがあったに違いない。それを貰った記憶も、着た記憶も、今の私には欠け落ちている。



 猗窩座さんや鳴女さんのことは覚えているとわかった瞬間の鬼舞辻さんの瞳。
 赤黒くどろどろとしたそこには、激しい怒りとその向こう側に……どうしようもなく深い深い、悲しみが見えたのだ。


 それを思い出し、私の胸に、後悔と申し訳なさとがぶわっと広がった。鮮烈な感情、ふと目尻に涙がにじむ。

 私は猗窩座さんに気づかれぬようすぐにそれを拭うと、感謝の言葉を口にして、蕨姫さんのもとへ向かうべく、彼へ背を向けた。

 *
 

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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