伍拾捌ノ破壊【長い夣の畢り】 ページ10
_A side_
『わかった!幸せに生きる!だからお姉ちゃん!』
何をいうかと返答を待った。すると彼女からは意外な言葉が出てきた。
『私を忘れないで』
笑顔だが、同時に悲しげな雰囲気を醸し出し、彼女_Aチャンは云った。
忘れない、忘れる筈がない。だから………
A「貴方も、私を忘れないでくれるなら…憶えているよ、永遠に」ニコッ
貴方は絶対、形だけでも死にたいと思わないで。私の分も幸せに生きて、多くの人に看取ってもらって…誰よりも幸せと呼べる人生を。
同じ人間でも、辿る道が違えば幸せになれると、私に証明して。
最悪の道を選んだ私と、最高の道を選んだ貴方。元は同じひとつの人間。全く真逆の道へ進めば、ちゃんと人生も比例して真逆になるのか……。ずっと待ってるから、何時か教えてね。もう一人の小さな私。
『勿論だよ!Aお姉ちゃん!』ニコッ
Aチャンは元気よく明るい笑顔で笑った。
───────────
そこで目が醒めた。私は寝台の蒲団を思い切り掴んでいたようで、手汗をかいていた。
夣とは思えない程現実的で、且つ長かった。
私は新台の横にある赤い本を見た。その表紙には完全自 殺読本とはっきり書かれている。
あの子はあの空間から出ることは出来るのか…もし私が残っていたら、如何なっていたのか…気になることは多いが、所詮は夣。
きっと、どんなに気になっていても永遠に見られない。今のうちに、何かに書いておきたくなった。これからの私の人生が、何か劇的に変わるかもしれないから。
その瞬間を見てみたい。その時の太宰治の顔を眺めてみたい。考えただけで愉悦の顔が浮び上がる。
私は机上に置かれた赤い手帳に日付を記入して夣の出来事を載せた。長々となってしまったが、忘れたくない。
変なところで__情が移ってしまったか。私は孤独に、貴方は大勢に看取られて死んで欲しい。
嗚呼__私は今日も仕事をしなければ。やりたくもない犯罪組織の仕事を、今日も熟さなければ。
あの子が職に就く時は……安全なところに入って欲しいな。
まぁ、結局____私が見た唯の夣。現実にはきっと存在しない。あの子はあの空間から出ることは一生出来ないし、あの場に私が残れば二度とこの世界には戻ってこれていない。
あの子に光を見せようと闇を見せようと、あれは昔の私だ。どう足掻いても、あの子は闇にしか………。
我ながら、最低だ。
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作者名:匿名F | 作成日時:2022年3月6日 20時