伍拾弐ノ破壊【条件】 ページ4
_No side_
部屋に入り、服を着替え風呂に入る。汚い返り血を落とす為だ。だが普通、腹部の治療が先の筈。Aはその腹部の傷がいつの間にか無くなっていたのだ。
風呂の鏡を見て一言も発さないAを見る限り、慣れているのだ。
だが、本人は何故こうなるか、知らなかった。
昔はよく怪我をして暫く治らないのが当たり前だった。それが最近になって覆り、ある条件を満たしている時のみ傷が治っているのだ。
その条件とは……____。
バキッ
A「……また…ですか」
Aの軽く触れていた風呂桶が西瓜割をした後のように割れていた。決して体重をかけた訳では無い。
これは、傷の治り…【再生】と共に起こる現象だ。条件を満たせば勝手に起こる自然現象。Aはこれを【破壊】と呼んだ。
【破壊】はどんなものでも破壊する。だがそれを使うには、二つの条件が伴う。
一つ、【再生】と同じ条件を満たした時
二つ、【右手】で触れなければ発動しない
この二点だ。
先ずこのふたつの能力を他人にみせたことの無いAは【再生】の機能だけは知らなかった。物体、物質にも働くが、人間の場合はどうなるのか。左手で触れれば良いのか。
自己治癒の場合、勝手に治っていくため自覚がない。怪我をしてもすぐに治り元に戻る。それがAにとっての【普通】となって行ったからだ。
もう三十分近く風呂に浸かっていた。だが顔は火照っていない。【再生】が働いたのか、まだ大丈夫なのか……その違いがわからないのも欠点だ。
視界が歪み、漸く危ない状況と悟ったAは、風呂から上がりすぐ部屋に戻った。
涼しくも暑くも無い部屋が、髪の湿ったAの顔を通る。
Aは椅子に座り俯いた。
A「(…昨日は首吊り…一昨日は銃殺…その前は……。…今日は毒が良いですかね)」
Aは毎日午後23時59分になると自 殺を図る。なぜこの時間なのかというと、喩え翌日が誕生日でも、最期は迎えることができるから、らしい。
だが一向に死ねない。彼女の特異体質で毒は効かない。而も自 殺を図ろうとした時も【破壊】と【再生】の条件が揃うため、銃は破壊され首を吊っても紐が千切れ首元の傷が再生する。
それ程自 殺に向かないのに、毎日それを図るのは……
110人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:匿名F | 作成日時:2022年3月6日 20時