漆拾捌ノ破壊【哀】 ページ30
_No side_
A「ッはっ」
Aはそこで飛び起きた。その躰からは冷や汗が出ている。まるで現実で起きたように、その夣は
A「……そういえば、似たようなことありましたね…先日。」
Aはつい先日起きたことを思い出した。
───
Aと太宰は、
太宰はAを本気で嫌っており、「本人によると視界にすら映って欲しくないし、息しないで欲しい」だそう。
Aは太宰になんの感情も抱くわけでなく、唯嫌われていると思っていた。「嫌いなら仕方ないし、役立たずで鈍間な人間で御免なさいって思う」と云っていた。
組織壊滅は案外簡単であった。太宰の天才的頭脳の恩恵だ。彼の考えた通りにやれば上手くいく、そう誰もが思っているから。
それはその日も順調そのものだった。だが、太宰の機嫌が物凄く悪かったため、部下がヘマをし、太宰の近くに敵を寄せつけてしまった。
それをギリギリAが守ったが、その行為が逆に太宰を怒らせたようで
太宰「視界に入らないでくれる?あと息しないで、」
と鋭い眼光と低音な声でそう云われた。そして、太宰の背後に近寄る敵に気付くのが遅くなり、庇えないと思ったAは太宰の分の傷を受けた。
腹部と後背部に入ったが、持っていた銃で敵を倒す。後背部の傷が深かったのか、Aは太宰の前で倒れた。
立ち上がるべくAが地面に手を付き太宰を見上げると
その顔は歪みきった笑顔であった。「あっはははっ」と声を荒らげ、先程の不機嫌さが無くなったように永遠と笑い続ける。
Aはこの日、この時、初めて太宰の笑顔……笑いを見た。Aの不幸が、太宰にとっては蜜ノ味なのだ。
Aはその顔と現実を見て、心の内から何か込み上げてくるのを知った。怒りではない何か。
そんなことを考えているうちに、Aの傷は癒えていた。
そしてその時にAの中で何かが壊れ、太宰への関心が深まった。
"私の不幸が彼の幸せなのだと"
───
先の夣はそれに近しい。
"Aの不幸が蜜の味"
その絶望感と、太宰の初めての顔、歪み切った笑顔、その全てを【処刑】に喩えた夣のように思えた。
Aは人を殺してはいながら、凡て命令通りにやってのけるような、反抗心の無い素直な人間だったのだ。
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作者名:匿名F | 作成日時:2022年3月6日 20時