漆拾漆ノ再生【愛】 ページ29
_No side_
Aが帰ったのは刻限が変わる頃。善い気分で部屋に戻り、フョードルに貰った宝物を棚にしまう。
A「…(あの人は変わり者だけど、優しいくて好きです…。ただ、兄の云うことに変わりないのは"私が生きてきても七篠は生き返らないし、意味もない"ということだけ。
自 殺願望…というより、仕事中に殲滅した相手が雇った組織に殺される方が、私には似合ってますね。)」
Aは静かに
───
Aは夢を見ていた。
白い服を纏うふわふわとした茶髪の少女。その近くには大勢の人が屯していた。その集団の中には少女の兄の姿もある。
少女は兄が好きだった。だが、兄はそんなことは無かった。
少女の家族はとうの昔に亡くなっており、唯一の家族からは嫌われて、少女は
"愛"を知らない哀しき娘
と呼ばれていた。
明るい性格では無いために少女には友達と呼べる人間が居ない。少女は何時も孤独だった。
そんな中でも、少女は夢を抱き希望を持った。叶うことは無いと知っていても、夢も、希望も、知る前には戻れない。
夢を叶えようにも無知無力な自分は何も出来ないと、そんなものを抱いた故に、結果少女は一人苦しんだ。
今迄全く話してくれなかった兄が、ある時少女にこう告げた。
"君は邪魔だから、早く僕の前から消えてくれ"
と。
初めて聞いた兄の願いを叶えるべく、少女はその言葉に首を縦に降った。──それが、兄の思惑とも知らず。
兄は少女に難しげな話をして、何やら時間を決めたあとに少女を牢に放り込んだ。その中で少女は、一人で哀しく泣いていた。
飯は三日に一回来るか来ないか。餓死してしまえばそれでいい、日まで持てば"処せばいい"。
兄はそういいまた笑った。少女の居ない地上で。
ある日の蒼い空の下。少女は手を後ろに拘束され崖付近に立たされた。そのまわりには着々と人が集まってくる。その中には、兄の姿も見られた。
少女は最期泣いていた。
"兄が幸せになるなら"
と。
自らの死を厭わず、純粋に兄の幸せを願う少女に罪はない。濁りひとつない蒼く美しい空の様に、少女に悪はなかった。
一人の男が刃物を持って少女に近付く。少女は今からされることに気付き、兄を見た。命乞いでは無い。最期に、顔を見たかったからだ。
その時の兄の顔は──
笑っていた。
初めて見たその笑顔は"私"が死ぬ時。"私"が絶望する間もなく、"私"の意識は途絶てた。
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作者名:匿名F | 作成日時:2022年3月6日 20時