漆拾参ノ再生【赤い鋏】 ページ25
_A side_
太宰治が私に近付く。そして、何かで私の腹部を刺した。痛い……気がする。痛覚より"痺れ"が強かった。
何故痺れているか…少し考えればわかるはず。でもその時は、脳までも痺れに侵されていた為に何も考えられなかった。
彼は私から離れると、狂気的に笑う。
太宰「幾ら君でも死ねるから安心しなよ。死ぬところだけは見てあげるから早く死になよ」
すると彼はまた
先刻から動こうとしても動けない。刃に殺鼠剤でも塗ったんだろう。取り敢えず刃を抜こうと腹部に手をかける。
そして思い切り刺さった刃を引いた。
耳を塞ぎたくなるような不快な音が私の腹部から出ていく。それと同時に又大量の血が床に広がる。
腹に刺さっていたのは、刃の部分が少し長い鋏だった。そして、その鋏には見覚えがある。
__________私の私物だ。
そしてそれは………七篠に貰ったものでもあった。幼少の私に護身用と持たせた何の変哲も………少し刃が長いだけの鋏。護身用には使ったことは無かったが、生活的に使わせてもらっていた赤い鋏。
今や私の血で本当に真っ赤だが。
私の頭は憤懣の感情に侵される。その鋏だけは使って欲しくなかったと、刺すなら別のものにして欲しかったと、私の血なんかで……その鋏を汚したくなかったと。
自分に対しての怒りが湧いてくる。
─こんな私なら死ねばいいのに─
そう思っても結局死ねない。───でも今回は違う気がした。
もう正直頭が回らない。大抵ここまでなったら再生が発動する。でも今回は──発動しない。何時までも腹部と脳が痛い。
これで目を閉じれば、彼の望んだ様になる気がする。
でも──────
"─太宰の思い通りにならないでくれ─"
七篠のその言葉を、私は守れますか?
それは、七篠の思想に合いませんか?
私がここで死んだら、彼の思い通りになったことになりますか?
七篠は私を"希望"と云ってくれた。こんな私に名前をくれた。それなのに、私は彼に何も礼をしていない。
彼の最期の言葉すら守れずに死ぬなんて──それこそ生きてる意味がない。
生きたい
生きたい
生きたい
まだこの世界で生きていたい
仮でもそう思った。すると再生が発動したのか、手足、脳の痺れがなくなってきた。
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作者名:匿名F | 作成日時:2022年3月6日 20時