第六話 ページ6
「あぁっ、鬼灯くん！どこ行ってたんだっ…あれ？この人誰なの？あ、もしかして…」
閻魔大王はずかずか直進してくる鬼灯に声を掛けた。鬼灯はじろりと目線を閻魔大王の方に動かすと、いつもの調子で言った。
「仕事は進みましたか？」
「も、もちろんだよ！」
「そうですか」
淡々と返答するや否や、鬼灯はAを手で示した。
「閻魔大王、本日付で地獄を見学なさる、大日如来様がお来しです」
Aは鬼灯の発言の後に、閻魔大王に一礼し、改めて口添えた。
「紹介に預かりました、金剛大日如来です。金剛界から出張に参りました。どうぞよろしくお願いします」
「あぁ、鬼灯くんから話は聞いてますよ！遠くからはるばるお疲れ様です」
「それで、親しみを込めて大日如来様のことをニックネームで呼んでくだされば」
「えぇ？ニックネームってどゆこと？」
閻魔大王は鬼灯の言葉に目を丸くして首を傾げる。鬼灯はそれは、と付け足した。
「大日如来様の受け持つ部下は、如来だけでもたくさんいて、更に各々の名前が長いとのことで、ニックネームで呼び合っているそうなんです」
「Aです。お好きに呼んでくだされば」
Aがまた頭を下げると、閻魔大王は笑って頷いた。
「じゃあニックネームで呼ぼうかな、どうぞよろしく」
「それで、初めに閻魔大王に挨拶をしに」
鬼灯がそう言うと、閻魔大王は少し考え込んでから口を開く。
「なるほどね。そうだなぁ…じゃあこっから先は鬼灯くんに任せようかな。スケジュールも自由に立てて良いよ」
「私が？」
「うんうん、よろしくね。わしは忙しいから…」
「言いましたね…？」
鬼灯の目が鈍く光る。閻魔大王は思わず肩を震わせた。
「ひっ、ひぃぃぃ！やっぱり怖いよ鬼灯くん！」
「では失礼します。…仕事が進んでいなかったら私があなたを一捻りして差し上げましょう」
「それって物理的に…！？」
「行きましょう、A様」
「え、えぇ…」
「A様、くれぐれも気をつけてくださいね。彼、鬼だから…」
歩き出す鬼灯の後を付いて行こうとするAに、閻魔大王は声をひそめる。鬼灯はぐりん、と首を捻って顔を閻魔大王に向けると、無言で見つめた。そして一言ぽつりと零す。
「…鬼です」
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