【短編集】マイクを握れ【ヒプノシスマイク】

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｢吸血鬼の特徴…影がなくて､怪力…それから十字架を嫌う…｣
｢失礼､そこのお嬢さん｣

ふと､声がした
振り返るとそこには男性が立っていて､目が合うと､にこりと微笑んだ
年齢は30代程で､すらっとした長身､俗に言うｲｹﾒﾝというやつだと思う
けれど､何故だか少し違和感を感じる

｢道をお尋ねしたいんだけどいいかな?｣
｢え…あ……ごめんなさ──ｯ!!｣

咄嗟に体を反り､目の前を空振る何かを避けた
嗚呼､分かった､違和感の正体
この人"影がないんだ"

｢ちっ…厄介なものつけやがって｣
｢ｯ……｣

その人の手には彼がお守りとしてくれた十字架が月光を反射していた
取り返したいのに､体が動かなくて､呼吸さえも止まる
ふと､男が笑った
恐怖で身体中から血の気が引く

｢や…っ……ゆめ､の…さ……ｯ…──幻太郎さんｯ!｣
｢はい､呼びました?｣

目の前が真っ暗になる
ついに幻聴でも聞こえたのかと思ったがどうもそうではないらしい
頭から被されたものは彼が羽織っている外套で､先程まで近くにあった匂いと同じだ
少しの間､静寂が続く
じっと､待っていると､ふと視界が明るくなる

｢……大丈夫､ですか?｣
｢…夢野さん､血が……｣

開けた視界に彼の心配そうな顔が映り込む
返り血か､彼の血か分からない鮮血を拭こうと伸ばした手が掴まれる
ゆっくりと首を横に振って､彼は悲しそうに笑った

｢……いいんです､貴女が無事ならそれで｣
｢…夢野さん､貴方は……｣

私が問いを述べるよりも前に､彼は小さく頷いた
それは､いつもみたいな嘘をつく瞳じゃなくて､真剣な眼差し
事実なんだ､って理解するのは難しいことじゃない

｢奇遇ですね､私も吸血鬼なんです｣
｢おや…それは……｣
｢えぇ､残念ながら"今"は嘘です｣

スマホを取り出し､先程調べていたままの画面を彼へ見せつける
これは嘘なんですか?なんて問いかけに彼は困った様に首を横に振った
ふふん､とご機嫌で笑う私の頭を彼の優しい手がそっと撫でる

｢……本当にいいんですか?｣
｢はい､というか夢野さん……いや､幻太郎さんがやってくれないと私､嘘吐きになっちゃいますよ?｣

悲しそうに笑う彼の頬をそっと両手で包み込む
血で汚れるのなんて気にしない
私の決意が伝わったのか､彼はゆっくりと首元へ顔を近づけて
優しく､牙を突き立てた
手から落ちたｽﾏﾎの液晶は明るい

吸血鬼に血を吸われた者は､吸血鬼になる

液晶はふ､と明かりを消した
月明かりだけが抱き合う二人を照らしていた

万年筆/夢野幻太郎(リクエスト)→←同じ月を二人で見よう/夢野幻太郎(リクエスト)

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