【 21 】高橋お伝 ページ21
【 21 】
「 ［明治の毒婦・高橋お伝］は実は相手が悪く、殺人を犯したと言われているんだって。 」
「 それは相手が何をしたかによると思うんだけど。 」
「 金を貸して欲しくて頼んだら、身体の関係を求められて応じたのに、結局金は貸してくれなかったから。偽装工作をしたり、無罪を主張したらしいが死刑だったそうだよ。 」
「 それは私でも怒っちゃう。殺しはしないけれど。 」
ボクは鏡に話し掛けていた。
ゴウトに話し掛けていたつもりだけれど、どうやらボクはボクに話していたらしい。
それがどんな現象か、今日ハッキリする。
「 病院嫌い？さっきから顔が強ばってる。 」
「 不安なだけ。入院しろとか言われたら、どうしようかと。 」
「 でも、お父さんに連れて来て貰ったんでしょ？良かったじゃん。 」
「 父とはたまに会うんだ。金銭面での援助もしてくれる。 」
ボクの名前が放送で流れた。
ちょっとドキドキする心臓を隠しながら、ボクは女子トイレから離れる。
診察室の前で座っていた父と共に、診察室に入った。
ここは精神科だ。
＠
「 高橋お伝はどうして毒婦って呼ばれる様になったの？ 」
「 旦那さんが結核になって亡くなったけど、お伝が毒を盛って殺害したのではないかと囁かれたから。 」
「 医学的根拠より人の噂の方が強いのね。可哀想なお伝。 」
「 ゴウト。 」
「 何？ 」
「 治療をしなきゃいけないみたい。 」
手鏡に映るのはゴウトの顔。
だけど周りの人はボクが手鏡に話しているようにしか見えないらしい。
「 解離性同一性障害だって。多重人格なんだ、ボク。ゴウトはボクの中のもうひとつの人格。人格をひとつにしないといけないみたい。だから治療を始める事にした。 」
「 私はどうなっちゃうの？ 」
「 消える。ボクの中から居なくなる。 」
ゴウトは悲しそうな顔をしたけれど、それはボクが悲しい顔をしたからだ。
ボクとゴウトはふたりでひとつなんじゃなくて、最初からひとつでふたりだったのだ。
「 ゴウトは生贄って意味だって言ったよね。［君は誰の生贄なの？］って。それってボクの生贄だったんだね。ゴウトがいる事で、ボクは自分を保てて来た。ボクが味わう苦痛をゴウトは味わって来た。だから生贄、そしてゴウト。気付くのが遅くてごめん。ゴウト、ごめん。 」
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作者名：七瀬 波子 | 作成日時：2021年10月18日 7時
