【獄都事変】どうぞ、おあがりなさい

豆腐とワカメの味噌汁 ページ9

とんとんとん、ととん、と人参を切っていると、足元になにかゴワゴワとしたものがまとわりついてきた。

「猫…？」


本日のメニューは肉じゃがです。



私の足に擦り寄ってきた猫は綺麗な毛並みをしていて、きっと飼い猫だなと思った。人懐こく、おねだりの仕方をよく知っている。なあん、と目を見つめて鳴くといいとわかっているらしい。

「あなたが食べられるものはないのよ。家は来るものは拒まず、去る者は追わずだから別にいてもいいけど」
「みょぉ」

よく味の染みたじゃがいもを小さく小さく箸で切り、猫の口許に持っていく。 匂いを嗅ぎ、食べられそうだったようで、ぱくりと食べた。

「家に帰ればあなたの幸せが待ってるよ」
「みゃぃ」

耳の裏を撫でればゴロゴロと喉が音を立てた。うっとりしているのか目を細く細くして。きっとこの子には帰るべき場所があるのだ。 迷ってここへ来たのだ。

「もう帰りなさい、御主人様が心配してるわよ」

すると猫はつまらないと言うようにふいっと立ち上がると、たとたんっと音を立ててどこかへ行ってしまった。

「あんたの想像する幸せを押し付けるなって？ はぁ…」

りんりんと鈴の音が「そうよ」とでも言うかのように響いてきた。

晩御飯を食べ終わり食器を洗っていると、玄関からバンバンと音がした。誰かが叩いている音だ。

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