依存病人【d!】 (ページ6)

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Aは床に這いつくばって、ひたすらに襲ってくる吐き気にひたすら耐えた。

先程から続く地面の振動に連動して頭痛の波が襲い、ぐわんぐわんと直接揺さぶられる。
ズキズキと脳に針を刺すような痛みが走るが、それ以上に不快感が強かった。

よれた映画のフィルムみたく、歪んだ映像が流れていく。

船酔いの時の嘔吐感であろうか、くるくると回った後の渦に飲み込まれて行く目眩と言うべきであろうか。

なにかとんでもなく大きなモノが、私の中の理性を終始壊そうと蠢いている。

つっついてしまえばいとも簡単に割れてしまう、ゴムが透けて見えるほど空気の詰められた風船のような。

それをひたすらに耐えて先を見ようとしているのだから、大きな並が襲ってきても仕方がないのだ。

しかし、大変気分の悪いもので、目の焦点は定まっていない。

「ゔぁ…」

まさしく、都から少し離れた田舎といった所にある民家や宿の傷んだ木の床を踏みしめる時に出る軋む音のように掠れた小さい音であった。
様々なオノマトペが脳内に響き渡る。

剥き出しになったコードから青白い雷が線に沿って蛇のように降りてゆき、子気味のいい音がなっていて…いや、そんなことはどうでもいい。

今は途方もない不快感をただただ払拭したいだけだった。

濁流が流し込まれた様に視界がゆがむ。あらゆるものの輪郭も、姿も、影でさえも。何もかもが二重にも三重にも重なって見える。

「ヴぁ...」

誰かの声が聞こえる。
生存者だろうか。

少しの温度と粘着を持った液体が洋服に染み込みAの体温を奪う。視界の端やあちらこちらに赤が映った。頬の辺りも同様に生温い液体が伝った。

木をくべた時のように炎と煙が立ち上るが、どうも立つ気にはなれない。

私の足や体は、どうやら動いてはくれないようなのだ。

そんな中低い位置で左右に広がり霧のようになっている煙の奥から、地面で砂利が擦り付けられる音が此方へ向けて大きくなっていった。

「か、かかかわい、そうう...」

喉奥に舌がつっかえてしまっているのか、息を途切れ途切れにこぼすような詰まった声がAの耳に入った。黒い影が目に入る。

「た、たすす、けたる...よ?」

痛む首をほんの少し動かすと翠に光る瞳が此方を捉えた。
ぼやけていた所為か人影の周りにぼんやりと光が取り巻いているように見えた。

突如、先程から後頭部に走る痛みが一層強いものへと変化し、Aは激しく強打した様な脳を直接弄られているのではないかと言えるほどの痛みに再び意識を手放した。