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馬車が止まると扉が開き、鬱が近くに見える洞窟へと歩いていく。慌ててAもそれに続いた。

辺りはひんやりと涼しく、天井からは水が染み出しているのか、ピチャンと岩に水の跳ねる音が響いた。

所々、土岩の壁からは見たことのない苔や茸のような植物が生えている。ぼんやりと自ら淡い光を放つそれは、決してランプの代わりになる程では無かったが、暗い洞窟の中で、道標の役割を表していた。

ほんのり薄暗い洞窟の中を、鬱はランタンを持って進んでいく。

「はぁ〜…」

立ち止まると、鬱はわざとらしく溜め息をついた。

「全く、僕と言う崇高たる思考の持ち主の価値が分からないとは...」

「コネシマも見る目が...」

ぱちりと目が合う。

鬱は漸く隣にいる誰かの存在を認識した。

Aは話し掛けようとしたが、鬱が固まっているのを見て、落ち着くのを待った。

ギギギと音が聞こえそうな程ぎこちなく動くとこちらを向いた。

そして、口を大きく開け、

叫んだ。


「うわぁぁーー!!!!」

まるで化け物とでも遭遇したような、幽霊を見た時のような、人から出るとは思えない声で絶叫した。


「な、なななな...!?」


目を大きく見開いたままその場にしゃがみこんだ鬱は、口を水を求める魚のように開閉させた。

体を震わせ、勢いよく立ち上がると、呆然とするAの手をガシリと掴んだ。

そして目を輝かせるとにこりとそれはもう満面の笑みを浮かべた。

「これは美しいお嬢さん...よく見ると僕と似ている格好ですね、これも運命と言うもの、是非この後一緒に食事など...」

なんだこの人は。



もう一度言おう、なんだこの人は。


Aは底知れぬ恐怖と悪寒を覚えた。

鬱はそんな様子のAに気付かず話を続ける。

「ところで種族はそのお姿から見るに魔女ですか、いやぁ、ミステリアスで素敵ですね。」

絶えず話を続ける鬱に何とか伝える。

「あ、私、人間です...」

「人間...?ハハ、冗談がお上手ですね...とっくに絶滅した種族に例えるなんて。」


絶滅した...!?

もしかすると、自分今の立ち位置は、とんでもなく危ういのかもしれない。

「ところで、お名前は?」

「あ、Aと申します。」

「Aさん...素敵なお名前ですね。もしよろしければタメでも...?」

了承すると、先程とはうって変わって砕けた口調で喋る鬱。


「デートするためにもぱぱっと洞窟見て、さっさとこんな所出ちゃおうな。」

目の前の男の会話力に、ただただ舌を巻くAであった。

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作者名:myself | 作成日時:2021年8月10日 22時

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