・ ページ6
馬車が止まると扉が開き、鬱が近くに見える洞窟へと歩いていく。慌ててAもそれに続いた。
辺りはひんやりと涼しく、天井からは水が染み出しているのか、ピチャンと岩に水の跳ねる音が響いた。
所々、土岩の壁からは見たことのない苔や茸のような植物が生えている。ぼんやりと自ら淡い光を放つそれは、決してランプの代わりになる程では無かったが、暗い洞窟の中で、道標の役割を表していた。
ほんのり薄暗い洞窟の中を、鬱はランタンを持って進んでいく。
「はぁ〜…」
立ち止まると、鬱はわざとらしく溜め息をついた。
「全く、僕と言う崇高たる思考の持ち主の価値が分からないとは...」
「コネシマも見る目が...」
ぱちりと目が合う。
鬱は漸く隣にいる誰かの存在を認識した。
Aは話し掛けようとしたが、鬱が固まっているのを見て、落ち着くのを待った。
ギギギと音が聞こえそうな程ぎこちなく動くとこちらを向いた。
そして、口を大きく開け、
叫んだ。
「うわぁぁーー!!!!」
まるで化け物とでも遭遇したような、幽霊を見た時のような、人から出るとは思えない声で絶叫した。
「な、なななな...!?」
目を大きく見開いたままその場にしゃがみこんだ鬱は、口を水を求める魚のように開閉させた。
体を震わせ、勢いよく立ち上がると、呆然とするAの手をガシリと掴んだ。
そして目を輝かせるとにこりとそれはもう満面の笑みを浮かべた。
「これは美しいお嬢さん...よく見ると僕と似ている格好ですね、これも運命と言うもの、是非この後一緒に食事など...」
なんだこの人は。
もう一度言おう、なんだこの人は。
Aは底知れぬ恐怖と悪寒を覚えた。
鬱はそんな様子のAに気付かず話を続ける。
「ところで種族はそのお姿から見るに魔女ですか、いやぁ、ミステリアスで素敵ですね。」
絶えず話を続ける鬱に何とか伝える。
「あ、私、人間です...」
「人間...?ハハ、冗談がお上手ですね...とっくに絶滅した種族に例えるなんて。」
絶滅した...!?
もしかすると、自分今の立ち位置は、とんでもなく危ういのかもしれない。
「ところで、お名前は?」
「あ、Aと申します。」
「Aさん...素敵なお名前ですね。もしよろしければタメでも...?」
了承すると、先程とはうって変わって砕けた口調で喋る鬱。
「デートするためにもぱぱっと洞窟見て、さっさとこんな所出ちゃおうな。」
目の前の男の会話力に、ただただ舌を巻くAであった。
174人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:myself | 作成日時:2021年8月10日 22時