買われました【d!】 (ページ9)

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「鬱さん！大丈夫ですか、鬱さん!!」

駄目だ。
魔物に襲われているという事実と目の前で人が死ぬ恐怖の渦に呑まれるA。

ドクリ、心臓の音が耳に響く。

先程まで中央にいた蛇は既に壁際まで迫ってきていた。

息を殺してその様子を伺う。

しかし、どこか様子がおかしい。
魔物は、頭を彼方此方に向けながら此方へと進む。
まるで、何かを探しているかの様に。

舌を伸ばし音を発てると同時に、Aの頭に声が響いた。

『ドコヤ...？ナンカ…オル』

直接脳内に響く感覚に、おもわず肩が跳ねる。

今地に伏せて呻いている鬱ではないのは確かだ。
それが表すことに気付いたAは冷や汗を流す。
つまり、思い当たる節は一つしかない。

「もしかして……あなたですか……？」

小さく喋った途端、勢いよくAのいる方向へと頭を向ける魔物。やはりその眼にはAの姿は映らず、視線の交わる事はなかった。

『!!……オレノ、コエ…キコエル？』

やはりそうだ!

Aは確信を得た。

『ナ、ナンデ…ミエナイ…ン？…コ、ンナン…ハジメテヤ』

何故か興奮した嬉しそうな声で話す魔物。正直、何故姿が見えないのかは謎だが、食おうとする様子もなく、Aは安堵から小さく溜め息を溢した。

それから一つや二つ頭の中で話をしていると、大体Aのいる位置が分かったのかその巨体で囲んだ。

まるで檻だな。驚きつつ上を見上げると先程の頭が覗いていた。
淡く体が光ると、Aを包んだ

『オ、オレノエモノ…シルシツケトイタ、カラ…』

今度迎えに来ると残して去っていった。

「な、なんやったんや…」

威圧感も消え、漸く喋れるようになった鬱。しかし、呆気にとられてしまったのか、立ち上がる事はなかった。

「こ、これ、倒したってことでいいよな。実際、もうこの洞窟におらんし…」

うんうんと一人頷く。

「立てますか？」

「え、いや、ウン。」

鬱は狼狽しつつも、差し出された手をつかんだ。

何で、助けたん？

此方を見る彼女にその言葉は届かなかった。

「…鬱さん？」

目を瞬かせているAの声で再び我に返る。

「あ、ありがとぉ…」

誰かにまともに礼を言った事など何時ぶりだろうか、と鬱は思った。

ぐっ、と手に力を入れて立ち上がろうとした。

……しかし

「あ、あれ……？立てへん…」

なんと格好のつかないことか。

腰が抜けてしまった鬱は、情けない声で、たすけて……とAに言った。