39、可笑しい ページ42
「涼人さ…」
早歩きを始めたその背中を必死に追うと、路地裏に入り壁に押し付けられ頭を打つ。
目の前には不気味に笑う涼人さんが居て。
「ずっと好きだったのに。愛してたのに。
どうして、あんな男をッ」
「離して…涼人さん何が」
胸ぐらを掴まれ、壁に打ち付けられる。
私がその右手を抑えると狂った様に叫んだ。
死ね。と。
そして右手に掴んだのは、ナイフだった。
「らしくない。優しかったのに、どうして。
でも…殺意を向けられた以上、黙ってるわけにはいかない。貴方に人なんて殺せない」
あんな鈍で死ぬ程、柔じゃない。
今まで銃弾が貫通した事もあるんだ。
「最初から君が好きだったんだよ。僕と付き合うなら
殺さないであげる」
「いッ…た…そんなの嫌に決まってる」
昨日の怪我が治り切っていない腕を掴まれた。
貫通した時でさえ2日後には塞がってたのに。
逆鱗に触れたらしく、真っ直ぐに刃が向かう。
……あれ…どうして。
凄く怖い。
それは今まで感じて来なかった筈の感情。
いや、仕舞い切れていた筈の感情。
「…死にたくない」
ガキンッ____
私が呟いた瞬間だった。
そんな金属音が響いたのは。
目の前に転がったナイフと…鳶色の柄の刀。
「あーあ惜しいや。助けてたァ、言わねェのかィ」
「…沖田…何で」
なんで、ここに。
すると朝比奈さんの手首を掴み、自分に向けられてないと知りながら、身震いしそうになる程真っ黒な笑みで言った。
「運が良かったなァ。それが一寸でもそいつに当たってりゃ、首と胴体がおさらばしてやしたぜィ」
何で、助けてくれるの。
嫌いなんでしょ?避ける程、嫌なんでしょ?
嬉しい。嬉しくて堪らないのに。
何で…胸がこんなに痛むの。
「暴れんじゃねェ。ちッ、面倒くせェ眠らせとくか。
…殺人未遂及び暴行罪で逮捕」
まだ、期待してもいいかな。
嫌われてないかもなんて、そんな淡い期待。
「…疑心暗鬼」
「ごめん…私、無自覚で嫌な事したんだよね…
嫌いなのに…助けてくれてありが」
その言葉の先は言えなかった。
優しく抱き締められた。
いきなりのことと、伝わってきた体温と匂いに驚く。
「言うな。お前に、んな事言われる義理はねェ。
俺が今だって、前だって一方的に…
傷付けちまうのが嫌だったんでさァ。
だが俺が身を引いても傷付くんじゃ、どうするのがベストか分かんねェや」
初めて見た弱気さに驚く。
意味分からない…けど私を心配してくれたらしい。
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時