30、嘘と真実 ページ33
毎日思う事と言や柄にもねェが会いたい。その一心。
最近は、朝も夕方も会えないし、見廻りで当てもなくグルグルと歩き回ってもそうは会えない。
いや。この傘、返しに行かねェとな。
そうやって、小さな糸を繋いでは結んでいく。
借りた旦那の傘を差しながら、帰路を辿る。
屯所に戻って直ぐ、さっきの奴らの拷問の筆録を山崎に持って来る様に頼むと何故か断られた。
「見せるなと、土方さんに言われてて」
は?意味分かんねェ。
直接、部屋まで行けば。
「わ、悪ィが筆録はこれから使うんだ」
「そうですかィ」
・
機嫌が良い方であった、沖田は部屋から素直に出て行った。それを見て、土方は深く溜息を吐く。
___これを見せたら。総悟はきっと。
自分の責任だと、距離を置く。
それが正しいのか、正しくないのか。それは二人が決める事だが……決して、苦しんで欲しくなどない。
と。土方は自分の過去と重ねた。
【一番隊隊長の女かと思って狙った】
それが火ノ鳥の船員の船員とはいざ知らず、攘夷の郎等だと思っている沖田はきっと、その嘘を信じ込む。
流石は、指折りの旅芸人一座といった所。
昔から演技を叩き込まれていたからか。いや、ずっと演技をしてきたからか。
鬼の副長でさえ、察する事すら出来なかったらしい。
拷問の筆録は、真実に偽って記録したり、捨てたり 燃やしたりしてはならない。
そんな事をすれば、敵を庇っているとして局中法度、第21条に関わるからだ。
とにかく、今は見せられないと。
押入れに仕舞い込んだ。
だが…沖田は。土方の言う事を素直に聞く様な男ではない。
惚れた女が傷を負って、嬉しい男など存在しない。
このドSに置いても同じで、事の次第によっては、Aを守らなければならないのだ。
長年、顔を合わせてきただけあって直ぐに筆録を見つけた沖田は部屋に戻り、頁を繰る。
「流石、土方さん。やる事がえげつねェや」
拷問の筆録には、その手段や方法も書き示すもの。
中々だなんて思いながらも、頁を進めていく。
すると、やはりあの頁は来るわけで。
「…え」
思わず声を漏らした沖田は、何度も何度もその文字を見返した。
そして、Aの傷とその表情を思い出す。
その場に寝転がり、本を顔に被せ悶々とその事について自問自答を繰り返し続ける。
_一方的に恋愛感情ぶつけて、そのせいでアイツは。
もう二度と、大切な人が苦しむ姿など見たくない。
それが18歳青年の答えだった。
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時