26、久し振り ページ29
それから数日後。
夏場では珍しく、雨が何日か連続して降っている。
今日は散歩がてら、昼ご飯と夕ご飯の材料の買い出しに出ようとすると。
え…嘘…ない。なんで、ないの……
「あ、悪ィ。お前のビニール傘、昨日、俺が使って置いて来ちまった。だから、新しいの…」
「なんで…あれだけは触らないでって、いつも言ってたのに。銀ちゃんの馬鹿ッ」
「何で、怒られなきゃなんねェ。俺は、ボロ傘を新品に変えてやったんだ。逆に感謝…え」
三人は私の顔を見るなり驚いた顔をした。
その時、目から何かが溢れているのに気付く。
戸をガラリと開け、外に出れば今日も生憎の雨。
早く探さなきゃ。
大丈夫。きっと。きっと、見つかる。
「銀ちゃん、最低アル」
「あの傘を大切にしてた理由があるんですよ。
探しに行きましょう」
「いやあれは…」
・
あの日の様に、激しい雨は地面に打ち付ける音を立てて降り頻る。
……あれだけは無くしちゃいけなかった。
どれだけ、ボロボロになっても。何年経っても。
____あれが無かったら…もう、二度と会えない。
そんな気がしてならなくて。
顔も声さえも覚えていない、彼と。
あの傘だけが唯一無ニの脈絡だったんだ。
でもきっと。会いたい、そう思っているのは私だけで。私の傘も、もうきっと捨てられてる筈。
「もう…いっか」
なんて到底思えなくて。
それなのに、諦めかけてる自分が居て。矛盾してる。
何となく入った公園の、あの日のベンチに腰をかけた。何も変わらない景色。
あの日。紅い傘と一緒に、悍しい自分をも手放した。
「久し振りだな」
え。
そう思った瞬間だった。
「……うッぐはッ…」
布の様なものが、視界を妨げたと思えば…
その布が、首に掛かり後ろから引かれる。
つまり、首を絞められて…
布を引っ張るがビクともしない。振り返ると…確か……この前の誘拐組織の。
もう一度前を向くと。刀を構えた、男共が何人も。
「…能無しの化け物かと思っていたが、顔だけは中々の上玉じゃねぇか。特にその紫眼は素晴らしい」
手首を縛られ、喋れない様に口も塞がれ、目も塞がれ。声だけを頼りに情報を得る。
能無しの化け物。昔の私の呼び名だった。
という事はこいつらは。
「思い出したか?旅芸人一座、火ノ鳥を。
だが驚いた。まるで人間に成りきってんじゃねぇか」
借りを返しに来たぜ。と。
借りというのは誘拐の件だろう。
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時