20、人間と化け物 ページ23
森に日が昇る頃。
廃屋敷の内外には、数十人の男供が打ち拉がれ倒れている。屋敷には、入って来た方と逆に裏口があった。
耳に入った車のエンジン音。
裏口を出て、すぐ横の壁に寄り掛かり座り込む。
「やっちゃったなぁ…これ。残党逃しちゃった。
でも……追い掛ける力もない…」
ハーフだから、普通に暮らしていく分には普通の食事量で平気なんだけど…戦うとなると。
それを繰り返すとやはり問題は出てくる。
傷の治りも遅い。前だったら、これくらいの切り傷 血は止まってる筈。
それに、夜兎の血の自制が効きにくくなった。
今も瞳孔が開いてるし、もっと闘いたいと心臓は早く鼓動している。
「もしもし、真選組ですか?
誘拐事件のアジトを潰したんですけど、地下に被害者が居るみたいです。場所は___ 」
場所を言い終えた時、後ろから足音がした。
振り返れば…いる筈もない男が居た。なんで…考える余裕すら今はない。
でも、その亜麻色に安心を覚えてしまう自分が居た。
誰にも会いたくなかった。今の私は化け物だから。
変わりたいのに、何も変われてない。
そんな自分が嫌で抱えた足に顔を埋めた。
「疑心暗鬼」
そう、私を呼ぶ声を無視する。
闘いたい。
本能に、かつての悍ましい感情が混ざっている。
声の男が横を通り過ぎ、風を感じた。
目の前に気配を感じて。
「怪我したのかィ」
いつもより、優しいその声に動揺して。
その声も聞こえない振りをした。
自分の中の僅かだが悍ましい感情。
殺したい。
それに気付いた今。結局、変われない事を悟った。
「来ないで」
「無理」
そう即答され、斬られた腕に何か巻かれる。
少し顔を上げると。頭に重みを感じた。
頭を撫でられてる、そう気付くのに時間が掛かった。
「怖いならやめるけど。怖ェの?」
「…ううん。あのさ…」
少し怖い。だけど、それよりももっと温かい気持ちになる。大きな手が落ち着く…なんて。
「ん?」
優しく聞き返してくれた。
「お腹空いた」
「ちッ、心配して損した」
そう言って、立ち上がった彼に今日こそは言わなきゃ。いつも意地を張って言えない事。
「ありが…」
言い掛けたタイミング。
スカーフをしていない彼が振り返り、言葉を被せる。
「俺ァ、礼言われる様な事してねェよ」
そう言って、歩いて行った。
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時