17、紅い傘の咲く空 ページ20
「あれ、パピー?なんで…」
「実はね、えいりあんをばすたーした帰りなんだ」
「あれ、お父さん。自分の毛もばすたーしたんですか?」
万事屋の戸を開いた星海坊主の髪は、まるで戦を終えた後の、焼け野原の様で。
「君達は、Aちゃんを知ってるか?」
「Aになんかあったアルか!?」
「神楽ちゃんに話をした事があるだろう?
夜兎の女の子の話を」
__俺があの子と初めて出会ったのは、雷が鳴り止まない星だった。
えいりあんが暴れているとの要請を受けて、現地に赴けば、一掃されたえいりあんを前に呆然と立ち尽くす少女が居た。背丈からして、8歳前後。
…真っ赤な番傘を片手に。
………あんなに小さな子が、まさか。
『ごめんなさい』
少女は小さな声で呟いた。
すると、背後に迫る影に彼女は気付かない。
『…お嬢ちゃん、こんな所にいない方が良いぞ』
そう言いながら、排除残りのえいりあんを切った。
『もうすぐ別の星に行くから。だから大丈夫』
『おじさんは星海坊主ってんだ。君の家は?』
『ない。あそこで暮らしてるの』
指を指したその先にあったのは。
この星に似合わない、煌びやかな宇宙船。
すると遠くから、男の声がした。
その声に少女は少し顔を歪め、走り去っていった。
次に会ったのは1年後。雨が降り続く星、洛陽。
雨の中、傘も差さず肩を震わせていた。
『お嬢さん、そんなに泣いてどうしたのかい』
初めは気付かなかった。
振り返ると、菫色の瞳で思い出す。
『あ。おじさん…泣いてなんかないよ』
そう必死で目を擦る姿に悲しみを感じた。
頭をガシガシと撫でれば、声を上げて泣き始めて。
『雨が全部、隠してくれるさ』
涙を見せたくない。幼いながらにそんな感情がある事に胸が締め付けられた。
理由を聞いても、何一つ答えない。
『おじさんは…なんでここに?』
『娘に会いに来たんだ。あ、アイツに会わせてやりてぇな。同じ夜兎の子供は珍しいから』
『半分だけね。もう半分は人間なんだって』
「人間と夜兎のハーフ!?
他の星に居たんですか、Aちゃんも」
「どうやら色んな星を飛び回ってたらしい。
宇宙では有名だったよ。化け物とさえ、言われて…」
その時、タイミング悪く帰ってきたAは表情を引きつらせていた。
その後、階段を駆け下りる音が響く。
「人にゃ、知られたくねェ事の一つや二つあるもんだ。乙女心はデリケートなんだよ」
「…あの子を頼む」
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時