12、自意識過剰な男 ページ15
自転車を漕ぎ、門の前まで来ると。
何故か、門に寄り掛かる亜麻色の髪の男。
待ち伏せられたのか、偶然なのか。
「最近、配達時間変えたんだってねィ」
「どうぞ夕刊です」
差し出すが、一向に受け取ってくれない。
3日前何があったか話すまで受け取らないと。
私は何故か、異様に苛つき自転車を降りて奴の横を通り過ぎる。
「…抱き締めたんだよ。覚えてないの?」
ポストに新聞を突っ込み再び横を通り過ぎた。
あれなんで。こんな、苛ついてんだ?
「意識したから、目も合わせねェのかィ?」
少し間が空いてから、聞こえた言葉。
ピクッと身体が止まった。
自意識過剰もいいとこだろ…でも、ここで全然なんて言ったらただの痛い男だ。
仕方ねぇ、優しい私からの助け舟だ。
「少しね。少しだけね」
「へェ、どれくらい?」
そんな自分に自信ある!?
逆にそこまで、自分を好きになれて羨ましいわ。
乗った自転車のペダルに足を掛けて、漕ぎ出だす。
「アンタの心くらい」
「ふーんそりゃ、かなりだねィ」
腕を組んでうんうんと頷いてる。
あ。そうだった、自意識過剰なんだった。
・
「総悟、何があった」
蒸し暑い道場内、さらにむさ苦しい男達の中に土方の声が通った。
沖田は、サボりの常習犯で夏になるとその回数は格段に増える。それが今、まさに打ち合いをしていて。
しかも、機嫌良さそうに口角がいつもより少し上がっていた。
「それが、ちと希望が見えてきたんでさァ」
訳の分からなそうな顔をした土方は、防戦一方となっている。だが、そんな状況が変わったのは。
「えっ、あの万事屋の叫ぶ少女が?」
「あぁ、道端で抱擁たぁ流石に驚いたね」
土方は、いとも簡単に一本取ってしまった。
そのまま道場を出ていくその姿に、何処か。自分を重ね合わせて。
その後、偶然を装い食堂で斜め前の席に腰掛ける。
きっと隊士達の話と様子から察するに。
とある答えに行き着いていた。
「(好きなのか。人間不信娘が)」
「土方さん、人を斬ってる限り俺は人に好かれるのは無理なんですかねィ」
「……さァな。本人以外にゃ分かんねぇだろ」
その言葉には、背中を押す意味も含まれていた。
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作者名:千歌 | 作成日時:2020年8月19日 0時