29話 ページ33
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「……ん!!Aさん!」
『………!!!あれ、私……』
ふっといつもの仕事場が目に映った。
自身の体を揺さぶった人の方を見ると、階下にいる男の子と………ヴィンセントがいた。
一気に目が冴える
どうしよう、仕事中なのに居眠りしてしまった。
こんなところをヴィンセントであろう幹部に見られたら?
自分が考えるより先に、口は謝罪の言葉を紡ごうとしていた。
『あの、私、』
「………無理するな。疲れているなら休め」
『え』
いつもより優しい声音。
険しく細められるはずだった目は、優しくなっていた。
隣にいた男の子に、ヴィンセントが「すまないが、
2人にさせてくれないか」と尋ねる。
男の子は慌てて返事して去っていった。
ただ状況が理解できず、その場でただ黙ってヴィンセントを見つめていると、ずいっと目の前にハンカチを差し出される。
………ハンカチ?
『?あの、何故ハンカチを』
「………言いづらいんだが…涙が出てるんだ。
これで拭いてくれ」
『…は……』
そう言われて頬に手を当てると、確かに濡れていた。
───────お姉ちゃん!
『う……うぅ………っ、』
ぽろぽろ、ぽろぽろ
ふと懐かしい姿が蘇る。
妹の声も、顔も、仕草も。
もうずっと聞いていないのに、昨日のことのように
覚えている。
そうか、さっきの夢で泣いてたんだ。
そう思うと、涙は止めようとしても止めることが出来なくなった。
私がハンカチを受け取らないせいか、ヴィンセントから涙をそっと拭ってくる。
優しい石鹸の匂いが鼻をくすぐり、柔らかい布が肌を撫でてきた。
ヴィンセントが何も言ってこないのは優しさからだろう。
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泣いて、赤く腫れた目を隠しながら言う。
『ありがとう、ございました。
……あの、この事は…シスロにも、バーバラにも…内緒にしてくれませんか』
「……っ…分かった。……蒸しタオル持ってくるから待っていろ。
あと今日はもう下がれ。顔色が悪いからな」
『……はい』
………また、迷惑をかけてしまった。
もっと、もっと気をつけなければ──────────
…
本日のMVP:ヴィンセント
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作者名:サナ | 作成日時:2020年9月22日 17時