五十三、泣くな ページ9
わたしに関して、何かしらの思惑が働いている……なんてなんだか実感がわかない。
その思惑とは異能特務課のある内務省のものか、捜査に圧力をかけている法務省か……。
いずれにせよ中原くんからの電話早くこーい。
あんまり先延ばしにすると、いよいよ治の妨害が避けられないものになってくる。
……彼奴のことだ。『わたしの幸せを何よりも望む』と断言していることもあり、それは彼の中でも最終手段になるだろうが、
たとえば……わたしを家に監 禁することなんて、あっさりとやってのけるに違いない。
「ポートマフィア元幹部様ほんといや……」
「何かおっしゃいましたか、津島検事」
「いえあの、すみません……なんでもないです、崎見さん」
そうですか? と無表情のまま首を傾けた崎見さんだったが、すぐに「では」と口を開く。
「そろそろ地検に戻りましょう。何か得られたものがありましたか?」
「いえ、特には……お邪魔してすみませんでした、刑事さん」
「いや。こちらこそいろいろ失礼なことを云ってすまなかったな」
会釈して、現場を離れる。
事件解決、ひいては【匣】についての調査完了への道のりは遠そうだ。
漠然とした絵すら見えないこの状況で、わたしが『自分』と『家族』について調べることなんて、本当にできるんだろうか。
……不安は大きく、深い闇のようだ。
それはきっと、治の闇を覗き込む時みたいに、重い。
*
あれから現場を離れて地検に帰っても、大した進歩はなかった。
午後八時だというのに、まだ治は帰っていない。入水してくる、っていうメールもないし、どこかで野垂れ死にしてることもないだろう。
……真逆仕事してるのか? 彼奴がか?
徹夜が当然のマフィア時代ならばいざ知らず、一応真っ当な企業であるはずの探偵社で、治が定時に帰ってこないだなんて。
いくらなんでも槍が降るのでは……なんて思いながら、ベッドに寝転がった。
「……あ」
寝転がると、枕のそばに治の包帯の一片があることに気がついた。
なんでここに……と考えて、一瞬で『ここであったこと』を思い出し、真っ赤になる。
「……シーツも、」
布団も、すべて、微かに治の匂いの残滓が残っている。
胸が嬉しく鳴き、同時にどうしようもなく悔しくて、涙ぐみそうになるが我慢する。
ダメだ、泣くな。負けたくないなら泣くな。
……そしてわたしが布団の上で丸まった時、スマホが振動した。
449人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年9月7日 14時