【文スト】許嫁からはじまるレンアイ【太宰治】

五十一、負けない ページ7

「……森さんの方も、治に借りはあるとはいっても、誠意を尽くす必要はないってことですか」


『そういうことになるな。とはいえ、あの糞鯖がそのことを読んでいないとは考えにくい。


ハナから首領(ボス)のことも信用してねェって考えるのが妥当だ。手前もそう思うだろ？』


「……まあ、そうですね、でも」



とはいえ、治だって森さん相手に立ち回って、全ての情報を手放させることは出来ないだろう。


森さんの方は治の弱みを知っている状態、


彼に『津島Aに絶対に隠し通したい秘密』があるというのなら、それを手札に治と相対することが出来るんだ。


彼は未だ治をポートマフィアに引き戻す機会を狙っている……そのカードを捨てるわけがない。


恐らく、森さんはこの件に関しては彼と対立する気マンマンだ。



「……森さんの管理する領域は、治にとっても入ることは難しい場所。


わたしが彼の手札にいるなら、わたしを切らせればいいと思ったんです」


『……手前もそういうとこは太宰と似てるな。流石幼なじみってとこか。嫌なところをついてきやがる』


「そりゃ治にだって、やられたらやり返しますよ……なんだか嫌そうですね？」


『そりゃ嫌だわ』



一応手前はその、友人、ではあったからな、とボソボソと呟く声。


思わず吹き出してしまったら、照れたことを隠すような低い声で『おい』とつっこまれた。



「いや、その、けっこう嬉しくて、ふっ」


『笑ってんじゃねえよ……』


「太宰治被害者の会、会長と副会長ですしね」


『会長の座は譲らねェぞ』


「わたしだって譲りませんよ。中原くんが副会長です」



わたしが何年彼奴によって大変な目に遭い続けているか……。


まあ、中原くんは短い間とはいえ、凝縮された嫌がらせを受け続けているわけだけど。



『……まあ兎に角、何か判ったら知らせてやる。携帯に細工がないか確認しとけよ。


一応盗聴に気を配ってはいるが、この会話は恐らく奴にだいぶ聞かれてる。


けどまァ、問題はねぇだろう……手前が俺に接触する可能性は当然彼奴も考えてる筈だ』


「判ってます。それじゃあ頼みましたよ」


『また連絡する』



ぷつりという音がして、通話が途切れる。


わたしは携帯の電源を落とすと苦笑した＿＿あくまでも『友人だった』であって、それは過去形なのだ。中原くんは自分の言葉に気づいてなかったみたいだけど。



「＿＿＿＿治。わたしは、負けないよ」



何をされても。何があっても。

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