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七十五、『人間失格』 ページ31

永遠ともとれるような一瞬が、過ぎ去った。


今度こそ、治の鳶色の瞳が目一杯開かれて、鋭く息を呑む音がした。


そして、わたしが瞬きもせず治を見ると、視線が交差した。


……何を聞いたのか、何を思っているのか、彼にしては珍しく驚いているようで。



____同時に、衝撃を受けているような、それでいて何かから解き放たれたかのような表情をしていた。



「……治君。お節介をしにきただけだという意味が、判ってくれたかな。


何度でも云おう。“私”はいつも失敗ばかりだ。……本当は妻を殺したいとも思っていなかった」


「……え、」


「治君のように全てを予測することなど、私には不可能なんだ。私と治君は似ていない。


だが一つだけ同じことがある」



____凪いだ表情をしている“お父さん”の肩に、治の手が伸びる。


ゆっくりと。白く長い指先が、迫る。



「たとえこれが歪んでいたとしても。……娘であるお前を愛しているということだ、A」


「____!」



勝手なことを云う、と思った。


母を殺し、自らの部下を殺し、姿を偽って娘を騙した挙句、其れが最期に口に出す言葉なのかと。



「っう、……!」



____ああ、でも。


こんなところで泣いてしまうのが、わたしも異質な存在である、彼の娘だという証左なのかもしれないと。


そう、思った。



「____【人間失格】」



静かな声で、呟かれた異能の名前。


世界を望まず、世界に望まれず、何を目的に生きるのかも判らないでいる孤独な青年。


如何なる時でも無情でいることが出来る、悪魔なような頭脳を持つ男。


彼は人に非ざる人。



「治、」


「A」



……でも、それでも。


いや、それなら。



「____治、好きだよ」



……わたしは異質な存在の血を引く、歪んだ意志を持つ、罪深い人間だ。


恥の多い生涯を送ってきました。



そう多分、わたしだって____『人間失格』だ。

終章→←七十四、残るもの



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さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1  
作成日時:2018年9月7日 14時

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