七十四、残るもの ページ30
「……!!」
息を呑んだ。
異能生命体。……そうか、その通りだ。彼は、死後に発動する異能【ヴィヨンの妻】。
それによって作られた
しかし消されるためにとは、どうして。わざわざ、もう一度死ぬために、ここに来たなど。
「信じられないという顔をしているが事実だし本心だ。この“私”に実の感情があるのならだが。
彼だって、“私”がここに来た意味を理解している筈だ」
治はその言葉に、静かな声で反駁した。
「私はあなたとAを会わせたくなかった」
「知っている。……君の初動が遅れたのは、あまりAの周りの者を疑いたくないからだろう?
うちの娘のために、君のその至高の頭脳が制限されるのは勿体ない。……だからこそ矢張り、この決着が望ましい」
そう云うと、崎見は……“父”は、ゆっくりとした足取りでこちらに歩み寄ってきた。
やがて彼は座り込んだわたしの横を通り過ぎると、治の前に立つ。
治は僅かに目を瞠ったが、動きはしない。
【人間失格】、それを行使できるその手は、かつて治の親友が纏っていたものによく似ている……砂色の外套のポケットに仕舞われたままだった。
____彼は薄く笑うと、わたしの耳に届かない声で、治に囁いたようだった。
「最後に一つ。……治君、君はどうだった? 私が、Aと二度と会わせたくない私が、だんだんとAに近づいているのは。
そしてA自身が、【匣】班長を犯人として追っている姿を見るのは」
「なあ、治君。もしAが幸せになれるのなら、他の男と一緒になって、本当にいいのか?
身に覚えがあるだろう。君は彼女に近づく男を、彼女と共にいる男を、排除しなかったか?」
「自分と彼女が離れることこそが真なる幸せだと認識しつつ、君が渡した
「なあ、治君。いい加減気づいたらどうだ。君の感情と望みは矛盾しているんだよ。……いや、言い換えよう。
いい加減認めたらどうだ?」
治が、また、僅かに目を丸くした。
そして“お父さん”が、微笑む____。
「君の
____絶望、悲しみ、妬み、憎悪。匣を開けて飛び出て行ったのは、ありとあらゆるこの世の不幸。しかし匣の中に残ったものは。
____希望、であった。
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さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年9月7日 14時