七十一、差異 ページ27
「どういう、意味……」
看過しがたい言葉に、わたしはのろのろと顔を上げた。
……心の奥底を読ませない微笑がそこにはあった。それでも、もうずっと前から、存在すらしていなかった“父”を思わせる微笑。
それはただの、
「よく考えてみるといい。お前の中にある、絶対的な優先度を誇るものを。
お前の中にある、その他の大切なものは、すべてお前にとって相対的なものに過ぎない。
お前の中にある、確固たる優先順位の、その頂にあるものを見ろ」
云われていることの意味が理解出来ずに、わたしは小刻みに唇を震わせた。
しかし、わたしの視線は自らの意識の範疇を外れ、焦点を後ろにいる幼なじみに……治に合わせた。
“崎見修治”は満足気に笑った。
「そうだ。その通りだ。よく思い出してみるといい、お前の望みを。
……幼い頃、初めて出会った時から、お前と治君は互いが他の何にも代え難いものだったようだが、それだけではない。
お前の世界の中心にいたのは、誰だ？ 私か？ それとも母親か？」
否、違う、と彼は目を細めた。
「A。お前は人間の範疇を超えた頭脳を持つ少年に惹かれ、幼い頃から身を削って居たはずだ。
そう、自分の他の全てを犠牲にしても、幼なじみである治君の隣に立つために、とな。
……それは異常以外の何物でもない。
お前の今の『史上最年少検事』という地位は、【パンドラの匣】の残滓もあってのものだが、そこに至るまでの尽力は間違いなく通途の範囲にはない」
判るか、という言葉が耳に刺さった。
お前も、わたしと妻の娘なのだと。
『異常者』の血を引くのだと。
＿＿＿＿反駁の言葉は出なかった。いや、出せるわけがなかった。
何故なら全てその通りだったからだ。わたしの世界は治を中心に回っていた。
……そして恐らく、治もわたしのそれにに近しい人生を送っていただろう。
既に人生を諦め、幼い頃から基本前途のことはどうでもよさげだったから。
彼の中心にあったのは『自分の世界の終焉』であり、その近くに居たのはわたしであった筈だ。
しかし両者の間には、純然たる差異が存在する。
わたしには選択肢があったが、治にはなかった。彼にとって守るべき存在であるのは、わたししか居なかったのだから。
「……そう、か」
“父”が居なかったわけではない。
自分が、彼の“そばにいる”ということに、気づいていなかっただけだったのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 449人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの２作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (
レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか？ (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます！！設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです！！ (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…！！ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……！！主人公がやばくてすみません……！こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました！！コメントすごく嬉しかったです…！ (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sunny
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時：2018年9月7日 14時
