五十六、普通の… ページ12
____その、刹那。
がちゃ、と寝室の扉が開く音がして、わたしは咄嗟に寝台から跳ね起きた。
鍵を閉めておいた筈なのに、と考えて、すぐに無駄だと悟る____彼奴は手先が異様に器用な元マフィアだ。
そもそも寝室はともかく、家の鍵にいたっては彼奴は合鍵を持っている。
「A」
「治……お、おかえり?」
「ふふ、ただいま」
何を云ってんだわたしは、おかえりって何だ。
スマホを握りしめる……動揺のあまり変な返事を返してしまった、やばい、わたしの動きを、これ以上此奴に知られる訳にはいかないのに。
……薄暗い部屋の中、砂色の外套を羽織ったまま立っている幼なじみの鳶色の目には、闇色の帳が降りていた。
来ているのは砂色の外套なのに、何故か黒い血塗れの外套を羽織っているように思えるのは何故だろう?
……こちらを見つめる視線の中には、ある意味狂気と云えるような何かがある。
手先が震えた。
……何か聞かれたら、平然と答えを返せる自信が無い、どうすればいいのか、わからない。
「A」
「っ、む、」
迷いない足取りでわたしの傍に歩いてきた幼なじみは、わたしの隣に手を置くと、そのまま唇を唇で塞いだ。
そしてそのまま深く、深く口付ける。
____また、
何度目だろう。こんな、こんな虚しくて、悲しくなる口付けなんて____。
「あ、っ……ふ、」
意図せず吐息が声になり、口から零れ落ちていく。その度に顔が熱くなり、羞恥に溺れる。
口内を蹂躙される、まさに“蹂躙”だ。引っ掻き回し、舐り、されるがまま。
……力が抜けてしまったタイミングを見計らったかのように、肩を強く押されて寝台に押し倒された。
息を整えながら軽く目を見張る。目の前にあったのは、幼なじみの秀麗な顔。
昨日の夜似合ったことかまざまざと思い出されて、かあっと更に顔に熱が集まる。
「……ねぇA。如何して云うことを聞いてくれないんだい?」
「っは、なんの、こと?」
「なんのこと? ……それ真逆本気で云ってるわけじゃないよね?」
スマホを握る手に手が重ねられ、強く握られる。
ハッとした時にはスマホは手から離れて、床に落ちて……そして治がそれを拾う。
わたしが息を呑むと、また軽く唇を重ねられた。
「私はね、誰よりも君を幸せにしたい。出来れば『普通の』方法で。
でも……云うことを聞いてくれないんだったら、此処に閉じ込めるしかなくなってしまうよ」
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さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年9月7日 14時