【D！】最後の晩餐【合作企画】 (ページ9)

今日:5 hit、昨日:9 hit、合計:111,949 hit

黒に染る②（gr）ページ9

·

　雪の降る公園で彼の手を取ってから、私は彼の──グルッペンのペットになった。
　手を取った時の彼の表情は満足気で、その手に引かれて黒塗りの高級車に乗せられた。車に乗ってからグルッペンの言う”拠点”に着くまでの間、何故私がペットになったのかの経緯を教えて貰った。

　要約すると、私は両親に売られたらしい。

　私の両親はどうやら犯罪に加担していたらしく、口封じに殺されたのだと説明された。そこに配慮は欠片もなくて、両親を殺された娘に話す話し方ではない。
　けれど、私の心が復讐や悲嘆で揺れる事はなかった。

　だとしても、両親との仲は良くも悪くもないし好きでも嫌いでもなかったが、堅気の人間ではない相手に売られるほど冷めきっていたとは思わなかった。

　それを知った時は、少し悲しかった。その程度の存在だったのかとほんの少しだけ憤りもした。けれど、座席に置かれた骨壷の入った袋を見て、死んでるんだからどうでもいいかとその思いはすぐに消火された。

「憎いか？」
「え」

　また唐突に声がかけられたことに驚いて、身体がびくりと震えた。掛けられた言葉を脳内で再生して、ふるふると首を横に振る。憎んでなどいない。両親も、両親を殺した人にも。

「なぜ？普通は憎むものだろう」
「そう、なんでしょうね。けど、何でかそういう気持ちが芽生えてこなくて……」
「そりゃ売られたと知った時は悲しかったしイラつきましたけど……結局二人は死んでるし。だから、なんとも思ってないんです」

「死んだ人に不平不満を言ったところで、どうせ死人に口なし。意味なんて無いんです」

「……薄情だと、思いますか？」

　チラリ。座席一つ分空いた横に座る彼を見やる。自分で言っといて不安になってきた。
　しかし、彼はその空気を揺らす低い声で否定の言葉を口にした。

(よかった……よかった？何で私は安堵してるの？)
　彼の否定の言葉に安堵した自分が信じ難い。なぜ、私は不安がっていたんだ。なぜ、私は安心したんだ。

　渦を巻きそうになる思考は、彼のバリトンボイスが聞こえた瞬間掻き消された。

「むしろ都合がいい。死人に対していつまでも泣かれては困るからな」
「それは……よかった、です」

　今度は何がよかっただ馬鹿野郎。

　彼に会ってその手を取ってから、私は自分が分からない。もしかして私は支配されて喜ぶMだったのか。
　いや、それは無い。………………と、信じたい。

·