３つの仮面を被るひと�ぁ�ht） ページ28
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「ははは、疲れたよね、こっちおいで」
ポンポン、と叩いているのは部屋で一番の存在感を放っているソファ。隣に座れということ？
『いや、私は床で充分だから』
「何遠慮してんの？いいからおいでよ」
『ほんと、だいじょ……』
長い腕だな、なんて伸びてきた腕を見ているといきなり視界がぐらついて、いつの間にか目の前が床だった。ああ、殴られたのか、と頭の中で考えていると後ろから首を掴まれて、強い力で引っ張られる。痛い、やめて、と訴えても変わらず、そのままソファに投げ飛ばされて馬乗りにされた。見上げた彼の顔は、出会った時の偽善スマイルとは違い、お風呂の時の大人な笑顔とも違い、それは完全に無だった。無表情。そのまま首に手をかけられ、顔が近づいてくる。ああ私ここで死ぬのか、まだ名前も知らない男に殺されるんだ……私の人生、滑稽だな。
「なんで？なんで拒否るの？ソファに一緒に座ろうって言っただけじゃん。服は素直に脱いだのになんでドライヤーも嫌がるわけ？」
『嫌っていうか、やってもらうの申し訳ないし』
「申し訳ないなんて思わないでよ、俺がしたいだけなんだからさ」
『……』
「なんで股は開くのに心は開かないの？」
『そ、それとこれとは、違うじゃん』
「……ふ、ははは」
視界が明るくなったことで彼が離れたことがわかる。笑い声はそこそこ大きく、空気がビリビリ振動して心臓が痛い。この笑い方は知ってる、人を上から押しつぶす笑いだ。
ソファに無理やり座ってきて私を抱き寄せる手は痛い。手が震え、ここに来たことを今更後悔した。
「そんな怖がらないでよ」
『……だって、私まだ貴方の名前も知らないんだよ』
「え？言ってなかったっけ？」
『うん』
「ごめんごめん、俺はひとらん」
『ひとらん、さん』
「さんはいらねえよ」
『……ひとらん』
「よし、いい子」
色々な仮面を器用に付け替える人、ひとらんさん。その無表情で次は何を言われるのだろう。ボロボロの足で逃げることも出来ない、警察にも頼れない、きっと殺してもくれない。歩けるようになるまでの間を考えると、何が怖いのかわからないのに手が震える。私が私でなくなってしまう前に、どうにか逃げないと。
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作者名：最後の晩餐参加者各位
x他1人 | 作成日時：2020年11月23日 20時
