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「その…気になったから…」
「何をだよ。ハッキリ言えよ」
そうヒカルに強く言い寄られ目が泳ぐ。
一歩後ずさりをすればヒカルが一歩こちらへ近づく。逃げ場がなく、背中にぴったりついた壁がやけに冷たく感じた。
仕方ない、と観念し口を開く。
「…別に趣味を否定するわけじゃないけど、その格好が、なんていうか、珍しくて」
「別に珍しくねーだろこんなん」
「ちがっ、ヒカルくんじゃなくてその後ろの…男の人だよ!」
そう言うとヒカルは目を丸くして、「はあ!?」と大きな声を出しながら私とその男性を交互に見た。
対してヒカルの後ろにいる彼は一瞬驚いたように目を見開いたが冷静で、私が彼を気にしていたことを何となく察していたかの様にも見えた。
「お前、こいつの事が見えるの!?」
「見えるって…どういうこと?」
「ヒカル、私が説明します」
彼がはじめて口を開いた。彼の声は低く、やはり男性だったのだと心の中で思う。
彼と目が合う。
今までに私が見た彼は遠目だったり視界の隅にいる彼だった。すぐに視線を逸らせたはずなのに、彼の顔を見ると何だか逸らすことができない。
人形のように美しい彼に私は釘付けになり、息をすることも忘れていた。
「A、と言いましたね。私の声が届いていますか」
「は、い…」
「私の声が聞こえるのですね。私は藤原佐為、と申します。私は一度死んだ身。成仏できない私の魂が碁盤に宿り、そこにヒカルが現れ…」
「ちょっ、ちょっと待って!意味がわかんない…死んだ身?ていうか成仏ってどういう…」
混乱し質問が絶えない私を見て、佐為はこちらに近づく。
思わず壁に沿うようにして隅の方へ逃げる私に佐為は「逃げないで」と呟いた。
その声で私の身体は言うことが聞かなくなった。彼の言う通り立ち止まり、彼を見つめる。
佐為は私の前に手を差し出した。
その手に困惑していると、彼は「触れてみて下さい」とだけ言った。
思わず唾を飲みこむ。
私の手を彼の手に近づける。指先と指先が少し当たるくらいに彼に触れようとした。
しかしどうにも触れた感触がない。不思議に思い自分の指先をじっと見つめる。
「…私の手を、握って下さい」
「にぎ、る…」
手を握る、それだけのことなのに心臓はうるさいほどに鳴っている。彼の手に触れようと、その距離が縮まるほどに息が詰まる。
しかし私の手は彼の手をすり抜け、掴むことができなかった。
私は「ひっ」と小さく悲鳴をあげ、腰が抜けてその場にずるずるとへたりこんだ。
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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時