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離婚から１ヶ月──おおごとにしたくない父の意向で裁判にはもっていかなったが勘当された俺は氏の変更をするのに結局家庭裁判所の世話になり、仕事をしながら諸々の変更・手続きをして帰宅後は家事が待っていて、こんなにしっかり睡眠を摂ったのはいつぶりだろう。
──いや、俺に寝てる暇なんてない。
「……ここ…どこだ…ホテル…？」
身体が重たくて思うように動かせないなか視線を彷徨わせているとデジタル時計が現在の時刻を夜中の２時と示している。もっとなにかこう有益な情報を。
「………っ！？」
「ん゛ぅ…あっ、起きたんや…おはよぉ〜」
右から左へ視界を反転させると飛び込んできたのは俺を抱きしめるようにして眠っている見知らぬ男のあほっぽい寝顔──びっくりして息を飲むと目を覚ましたそいつは眠たげに目をうっすらとあけてほほえみ、甘えるように肩口にぐりぐりと鼻先を擦りつけてきた。
「だ、だれ、」
「だれって…会社出てすぐのとこであなたがいきなり倒れたから雨のなかおぶってここまで連れてきてあげた、ただの命の恩人です」
「倒れた…？」
「覚えてへん？守衛さんにも心配されてたやんか」
「ああ…なんとなく…ぼんやりとは……」
「……あのやりとり今日がはじめてとちゃうな？」
本社から支社に移動して数日、離婚してから目まぐるしく環境が変化して疲労とストレスは限界超過。それでも慣れない業務は容赦なく舞い込んでくるわけで。残業続きでフラフラの俺を見るたびに守衛の方に心配されていたのは紛うことない事実。
「電話。さっきからずっと鳴ってる。出てきたら？」
「じゃあ失礼して…ッ、ええなに！？」
図星をつかれて言い淀む姿を見兼ねたのだろうか。枕元で震えるスマホを握りしめ、ベッドから出ようと床に足をついた刹那に下半身に電気がながれたような鋭い痛みが走った。お互いパンイチやけど……まさか…まさかな。浮上したありえない一説をかき消すようにぎこちない小走りで浴室に雪崩込み、通話ボタンをタップした。
「……あ、」
「おかえり」
電話の相手は弟だった。通話を手短に済ませたあと大量の着信とメッセージに申し訳なさと情けなさを感じながらもどると、ベッドの縁に腰掛けて両手を広げて出迎えた彼が俺をぎゅうと抱きしめた。
「ほんまに帰るん？」
「帰らな明日出勤できへんから」
「そっか…」
「助けてくれてありがとう。えっと、」
「のぞむ。小瀧望。おにいさんは？」
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作者名：26 | 作成日時：2022年10月21日 0時
