【歌い手短編集】平成最後の夏は君と！ (ページ28)

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そんな日々が続いたある日、彼は“いつもの指定席”にはいなかった。
驚いて砂浜に降りると、そこには一輪のハナミズキとメッセージカード。

それを見るなり、わたしは駆け出した。
小さな街を走って、走って。
彼の背中を捉えたのは、踏切の手前だった。

「ねぇ！」

踏切の奥にいる彼を大声で呼ぶと、いつもよりも哀しそうな笑顔で振り返った。

「私の名前はA……！君の名前は…？」

閉じた踏切の向こうから、電車がやってくる。
彼の唇が動き終わった途端、電車が私たちを遮った。

踏切が開いて境界線がなくなっても、彼はそこにはいなかった。

「まふ…ゆ」

初めて名前を聞いた、とても暑い真夏の日。
“まふゆ”と名乗るその彼は、私の前から忽然と姿を消してしまった。

＊

唐突すぎる出会いで、唐突すぎる別れで。
全部全部彼のペースだったと気がついたのは、１ヶ月も経った後だった。

馬鹿だなあと思ったけれど、きっとこれが“恋は盲目”ということなんだろう。
…実際、１ヶ月経った今も忘れられない。
この街は大好きでも、この街にいたらきっともう永遠に彼には会えない。

じゃあ……私のやることは、１つしかない。
私は机に向かってペンを取った。

贈られたハナミズキを見てふと思い立ち、花言葉を調べる。

“永続性”
“私の想いを受けてください”

そんな言葉が出てきた。
嘘つけ。あんなに出てきたところに未練たらたらみたいな表情して、それでいてこんなの…

ずるすぎる。