4 ページ5
無意識か、故意的か。
ハンジが小さくこぼしたその名は、突如激しくなった蒸気の音に掻き消され、フロックらに届くことはなかった。
彼らの背後で蹲るように身体を曲げていた謎の巨人が、奇妙なことに蒸気を吸い上げていた。これにはハンジもリヴァイに向かっていた意識を持っていかれた。
「消えている…？死んだのか？」
「いや。普通蒸気が吸い込まれるように消えたりしないっ…」
初めて見る現象にその場にいた全員がその巨人に釘付けになる。気づけば彼らの頬を打ちつけていた雨も上がり、雲の隙間から細く光が差し始めた。
「っ…………」
思わず光に目が眩み、ハンジは目を細める。ぽたぽたと前髪から水滴が落ちた。
未だ蒸気が視界を遮り、その先に何が起こっているのか、ハンジたちには分からない。だがそれも雨と共に少しずつ晴れていった。白い煙の隙間から、煤けた巨大な骨が見える。やはり先の巨人は死んだようだ。これも奇行種なのだろうか。
そうハンジが結論づけようとしたその時、巨大な骨の中からぬるりと何かが落ちた。それはよく見なくとも人だった。全裸の、金色の髪をした——。
「………っ」
その人物に、ハンジは思わずリヴァイを抱く腕に力が入った。
彼はゆっくりと立ち上がり、顔を上げる。その顔はまるで夢が覚めたばかりのような顔つきだった。
フロックも、イェーガー派の兵士たちも口を半開きにして固まっており、その場は本気で時が止まったかのように思えた。だがハンジだけはその空気に呑まれなかった。
「んっ…」
唇をきつく結び、ジーク、リヴァイ、そしてすぐ先にある水路を見やる。どうするか、なんて考えるまでもない。ハンジは即座にリヴァイを胸に引き寄せ、ためらうことなく水路にリヴァイごとその身を投げた。
その水音が合図になったのか、固まっていたフロックたちの呪縛が解け、彼らは一斉に水路に向かって銃口を向けた。
「逃げられたぞ！！」
「しまった…っ！」
「追え！逃すな！！」
銃声と馬の蹄の音、水が弾ける音。ハンジは水の中でそれが止むのを待った。そして祈った。
必ず、君に返すから。もう、君たちを引き離したりしないように、私が、なんとかするから。だからどうか、どうか無事でいてくれ。——ルアナ。
彼女の大事な、大事なものを抱えて——ハンジは進み続けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 808人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふゆ(プロフ) - めっちゃ引き込まれるお話ですね！！！ほんとに更新が楽しみです！ (12月2日 0時) (
レス) @page38 id: 484893ce06 (このIDを非表示/違反報告)
せい - 最近イッキミしたもので！最高しか言えません！！応援します！ (11月28日 4時) (レス) id: 9598d06351 (このIDを非表示/違反報告)
あい - とってもおもしろくて一つの物語として楽しんでいます。続きのお話が楽しみです！ (11月22日 19時) (レス) @page32 id: fbec67f27a (このIDを非表示/違反報告)
夜桜(プロフ) - ドキドキしながら読ませてもらいました。作者様のペースで良いのでこれからのお話も楽しみに待っています！！ (11月22日 17時) (レス) id: c807065baf (このIDを非表示/違反報告)
高橋 - 更新待ってます！！頑張ってください！！ (11月12日 17時) (レス) id: 2973651174 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あんこもち
| 作成日時：2023年8月1日 8時
