今日:13 hit、昨日:92 hit、合計:50,496 hit
小｜中｜大
52 ページ3
「ルアナさん、お時間です」
「ん。行きましょう」
ルアナはエレンの答えを待つことなく、ベンに車椅子を上げるよう指示を出した。
ベンが車椅子のストッパーを上げて方向を変え、鉄格子に背を向けた時、それまで沈黙を貫いていたエレンが小さく口を開いた。
「……俺は、この先を知っています」
「っ、！」
「………そう」
驚きのあまり思わず手が止まるベンと、一切動じず前を向いたままのルアナ。次の発言権は彼女だけに許された。そんな空気がキリキリと皮膚を刺す。
「…………」
「…………」
「っ………」
ベンはゆっくりとルアナを見下げた。微動だにしない目下の彼女は、ほんの少しの間の後、僅かに目を落とした。
「……じゃあ、その最後の戦いに、…私は、いる？」
ベンはハッと息を呑む。
ぽちゃんと水が一滴だけ水面に落ちた。
「——いません。あなたの姿は、どこにも。」
もう何も音を立てることはなかった。
「……そっか。教えてくれてありがとう」
そう言って最後はエレンを振り返った彼女は、小さく微笑んでいた。
＊
地下牢を出て、司令室に戻る道中。
「ベン。」
「は、はい」
ルアナは前をまっすぐに見つめたまま、しっかりとした口調で部下に命じた。
「……全て他言無用、例外はなし。いいわね」
例外は、なし。
ベンはごくりと生唾を飲んだ。
「っ…、はい。分かりました」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 383人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あんこもち
| 作成日時：2023年6月6日 8時
